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京町家作事組
町家改修設計の勘どころ・その5

住まい手と職人をつなぐ設計

シリーズ5回目は「住まい手と職人をつなぐ設計」について、クカニア・南麻衣子さんにお話を伺います。

◎改修現場での経験の中から
町家の原点に立ち返り、傷みを直し元の状態に復元するという改修方針のなかで、京町家の間取りや大黒柱などの架構、形式の違いを見聞し、学んできました。本来の間取りを仕口の跡から想像したり、表通りの様子から外観を検討したりといった、今までの仕事の中で重ねてきた視点を、設計理事となった今、改めて感じるようになりました。
 柱や梁の構造材が現しになった真壁でつくられる町家は、メンテナンスが容易で芯まで自然素材の住宅と言えます。昔の人によりどこまで考えられていたかは計り知れませんが、施工が楽だからといって、簡便な方法で住む人の見た目に心地よいことばかり優先して隠蔽する方法をとることには疑問を感じます。
 しかし古くから受け継がれてきた町家に今の暮らしを落とし込もうとすると、今と昔の時間的隔たりによるひずみが生じます。そのひずみが少なくなるように工夫しています。たとえば昔はなかった大容量の配電盤など、違和感のない配線ルートを検討しますし、露出配線にするなら美観を保てるよう位置を考慮します。現しや素材のこだわりなど町家の優位性を保った上で、今日の生活にも調和するよう心がけています。

◎設計のかかわり方
同時に、設計という役割にはいろいろなものがあると感じるようになりました。
現在の法律を京町家に置き換えて整理したり、職人さんの考えを施主さんに代弁したり、空き家の京町家では住み手がまだ決まらない段階で想像を膨らませて改修のお手伝いをしたり、設計とは何か、日々試行錯誤ですがやりがいはあります。無垢材の家をよく手がけるクカニアには京町家の特徴を部分的にでも取り入れたいというお客様が多くいらっしゃいます。DIYでたたきや弁柄塗りに挑戦された方は、経験者として後のお客様の指導に参加してくれたり、家に招いてくださったり、住宅設計に携わるものとしてたいへんうれしいことです。これからもいわゆる出入りの関係を超えたつながりが続いていくことを願っています。
 いま二条城北小学校にほど近い町家の改修の設計に取り組んでいますが、住まい手としてのお施主様が設計段階で特定されていないため、新居を探す不特定多数の人が使いやすい住宅というものを考える必要があります。不動産会社である建築主の視点からみた重きの置き方と作事組のそれが異なる点にも気づきました。防蟻処理、防水処理は多少費用があがっても外部に委託し保障をつける一方で、畳は硬いスタイロのものに一般の人の足元の感触が慣れているからそれでよいのではといった意見もありましたが、作事組として本物を使ってもらいたいという思いから、本床の表替えとすることに決まりました。
 新しくその土地と町家に出会い、外からやってきて住まわれる人と町家との付き合い方を考えてみるきっかけにもなりました。その町家を気に入った方が、職人の仕事や町家への理解を深め、これから長い時をずっと住み続けていただけるように、これまでと変わらず作事組としてのサポートを続けていきたいと思います。

◎京町家の諸側面
 神戸出身の私は京町家に対して特に先入観はありません。デザイン性と機能性を追求するため、新しい設備にも魅力を感じますし、暮らしやすさもまた重要な要素だと思います。そのような中でも、軒の連なる町並みは京都の財産だと思います。京町家のような古い建築物が点ではなく面で残れば、景観としての美しさは圧巻です。古いものを残したいという気持ちには共感しますし、そういったものが見直されている今だからこそ、個人の趣向を超えた価値を共有できるよう、働きかけたいと思います。
 また京町家の構造について何が正解かというのは難しい問題ですが、対象の町家の仕組みのなかに正解はあると信じて取り組んでいます。昔の人の知恵を読み解く能力と、その方法を採用できるかどうかを判断する力を、もっと養っていきたいと思います。
 建築基準法の枠組みから外れた京町家は、しばしば改修の規制を受ける場合があります。現在の法律では私たちとは異なる視点もあり受け入れ難い部分もありますが、その中でも京町家における法律との接点を見出して知恵を出し合い、作事組メンバーが共同性をもって対処していきます。
 町家と同じ石場建ての新築も可能になりました。平屋であれば、限界耐力計算などのいわゆる構造計算を行わずに、伝統工法で新たに建てることができます。建て方が難しく、大工手間のかかる仕事ですが、二軒の設計を担当し、手ごたえを感じています。

設計士プロフィール
株式会社クカニア 南麻衣子

1983年 神戸市生まれ。
2006年 立命館大学理工学部土木工学科卒業
同年、株式会社クカニア入所。町家改修設計にたずさわる。
2013年から 京町家作事組設計担当理事。

(2015.3.1)