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京町家作事組
町家改修設計の勘どころ・その6

町家の調査と現況図と撤去図

◎調査
 町家改修のプロセスで例外なく行われるのが実測調査です。現況図を作成するのに必要な平面寸法、断面寸法、部材寸法、不陸、倒れ等を測っていき、屋根の雨漏り、床下の換気状態、柱梁の腐朽、蟻害、既設の設備配管配線、隣家との取り合い、すでに著しく手が加えられている町家であれば元の姿の考察に必要な情報など、町家の状態を評価するのに必要な調査を行います。
 当然の話ですが現況図と建物の状態評価を間違えば必ず工事の見積もりに影響します。図面は見積もりをするためのものです。設計図の中では一見目立たない現況図と建物の状態評価が重要になってきます。間取りの寸法、天井高さ、床高さ、桁高さ、屋根の勾配などによって土壁の塗り替え範囲や外壁、造作、仕上げ工事の範囲が決まります。また、状態評価により屋根の葺き替え、揚げ前、根継、イガミ突き、延べ石、一つ石などの改修の必要性や数量が出てきます。
 技術者は町家の現況図と建物の状態を照らし合わせてお施主様にしっかりと説明しなければならないし、お施主様にはその部分をしっかりと把握された上で改修計画や予算計画をたてて頂きたいと思います。同じ規模の町家で改修後の姿が一見同じであっても既存の状態によって費用は変わってきますので、その費用の内容は一体何であるのかを把握されるためにも、改修後のプランや仕上げ材や設備ばかりでなく、現状のどこが悪く、どの範囲を撤去し、どの部分を直さなければならないのかにも目を向けていただき、見積もりの根拠となる現況図、撤去図から、改修後には無くなり、あるいは見えなくなる部分にも注目して頂ければと思います。

◎現況図
 まず基本的に必要となる現況図は平面図と断面図です。立面図については平面寸法と断面寸法が分かれば自動的に壁や建具の範囲が積算できるので、助成金申請に必要な場合や、大きく外観が変わる場合などを除き、不要だと思います。
 現況平面図に必要な情報としては基本的に先ほど挙げた平面寸法や不陸、倒れ、敷地境界線、前面道路、工事にかかわる隣家の情報などがあります。各室の床面積を算出することのできる柱芯寸法が記載されていれば基本的によく、柱やその他の造作材の細かい部材は実寸で図面にかかれていれば寸法値の記載は特に必要ありません。間取寸法について少し注意すると、例えば一間の幅の部屋があった場合、柱の芯から芯が実測値で2,012mmと測れても柱が100角であれば京間の畳寸法の1,910mmを足して2,010mm(110角なら2,020、120角なら2,030という具合)となるので図面では2,010mmと記載されます。実測値だけでは建物の倒れや木材の収縮などに影響されるので町家の寸法をしっかり理解する必要があります。
 現況断面図は町家のトオリニワの通りと部屋の通りの床高さ、階高さ、桁高さ、天井高さが把握できる寸法を記載していきます。平面図と同様に梁、桁、胴差、ササラ、ヒトミ梁、その他の造作材等は、実寸で図面にかかれていれば部材寸法を記す必要はありません。断面図は建物の表側と裏側の矩計を実測の際にしっかりおさえておけば後は屋根の勾配と棟の位置で自動的におこすことができます。桁方向の断面に関しては断面情報としては特段必要ないでしょう。断面で少し注意が必要なのは桁高さを測る際に軒先の納まりが垂木を出桁と腕木で支えるカシキ造りである場合、目視で下から見える桁らしき横材は腕木を受けるための材であって、その上に本物の桁があるので騙されない様にすることです。お座敷側では縁側がある場合、化粧軒裏になっていることが多いのでここでも化粧垂木の上にある野桁や桔木等の三角納まりに注意しましょう。
 昭和初期型とそれ以前の町家の違いについてもしっかり把握しておく必要があります。昭和初期型では足元の土台、側壁を1、2階、小屋で分断する胴差、妻梁、火打梁などが登場してきます。それらの違いも含め、町家全体の軸組み、寸法体系を把握することで実測が効率よく行え、現況図も手間が掛からず作成する事ができると思います。
 断面の実測や作図については技術者の話ですが、お施主様の立場からすると改修の計画中はつい平面プランだけで話や考えを進めてしまうかもしれません。しかし建物の全体を把握するためには断面図(矩計図)が一番重要になってきますのでプランをお考えの際はぜひ建物の「高さ」にも注目して頂ければと思います。

◎撤去図
 次に撤去図についてです。工事に着手した際に仮設や養生を別にして一番はじめに掛かる作業が撤去工事です。見積書にも工事項目としてはじめにあります。
 撤去図では既存の内外装材、例えば室内に貼られている合板や畳、建具や造作材、設備機器などの撤去範囲や箇所を示し、外部では外壁材や屋根材(瓦のみか下地材共か)、不要になる物干し台や植栽、塀などの撤去範囲を示していきます。撤去図に示された内容によって撤去に掛かる手間や廃材の数量、運搬費、処分費がでてきます。
 見積もりのため必要になるのと同時に現場で作業をする施工者が何を撤去し何を残すのかを判断するためにも必要になってきます。逆に撤去図がなければ改修図だけで撤去か存置かの判断をしなくてはならず、混乱する恐れがあります。再利用するつもりのものを誤って処分するといった事態を防ぐためにも、改修後には無くなるものを明示する根拠資料として撤去図が必要になってきます。地味ではありますが重要です。

◎おわり
 大雑把ではありますが、今回は図面の中でもあまり目立たない現況図と撤去図、その元となる現地調査についてお話させて頂きました。技術者にとっては当たり前な話ばかりで恐縮ですが、今後町家の改修をお考えの方や計画中の方には例えばご自身で町家の間取りをスケッチされたり、不具合のある部分を調べられたり、設計者に依頼をされる際などに参考にして頂ければ幸いです。
(聴き手:作事組事務局 森珠恵)
設計士プロフィール
井澤弘隆

2007年〜2008年 第2期棟梁塾に参加。
2009年 京都造形芸術大学地域デザイン専攻卒業。
同年、株式会社中村設計入社。
おもに寺院の改修・新築工事の設計監理を担当。
2014年〜京町家作事組 設計担当理事。

(2015.5.1)