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京町家作事組
作事組の職人さん・その4

庭職人

(京都景画)
 今回は造園を手がける京都景画の木村孝雄社長と、入社3年目の中村恵子さんにお話を伺います。

木村さん・中村さん―京都景画にて
木村さん・中村さん―京都景画にて

 ――どのようにして造園の道に入られたのですか
 中村 最初から事務職は向かないと自覚していました。京都嵯峨芸術大学で版画を専攻しましたが、就職博で城陽市の建設会社が新規事業の立ち上げ要員を募集しており、現場作業ができると聞いて入社を決めました。造園部に配属され、そこに働く先輩方の仕事ぶりをみて私もあんなふうにやっていきたいと思っていました。ところが入社半年ほどで事業は中止、人員削減で二年前に退職しました。そんなとき京都景画の求人を見つけました。
 木村 中村さんはうちに来たときほとんど何も知りませんでした。自立してやっていくには、木や石ばかりでなく人を相手にすることです。どこにどんな石を置いて何とかの木を植えますと口で言ってもわかってはもらえません。絵を描いて見積を出しお施主さんを説得しないといけない。自分の手を動かして頭のなかに像を描くこと。中村さんにはそれを期待しているのですが、なかなか描こうとしない。自分で描かないと全体の構成を捉えながら部分をつくることができないのです―とついつい偉そうなことを言いましたが、私も若い頃はなかなか描けませんでした。経験の積み重ねがないと更地を前にして庭の造形を思い描くのは難しいです。昔は造園というと農学系出身者が多かったのですが、最近は芸術系から入るケースが多いです。私も大学でヴィジュアルデザインを学びました。工学系のプロダクトデザインです。元々好きだった自然とデザインを両方やれるのは造園しかないと思い、あえて京都を離れ大阪の造園会社に就職しました。6年勤めたあと今の会社を立ち上げました。「京都景画」という社名は、何の会社かわかりにくいと言われますが、設立当初に島根の仕事が多かったので京都ブランドを前面に出して景観計画の「景画」につなげました。これはまちづくりコンサルタント上田昌弘さんの椛「景にヒントを得ました。「造園」という言葉が広く一般に使われるようになったのもそれほど古い話ではないと思います。庶民が庭をもてるようになったのは明治以降じゃないかと思います。それでも京都には寺院の庭が多く、町の人は名所図絵のようなものを目にする機会もあったでしょうから、庭に関する美意識が育っていて、町家の庭にもその反映をみることができると思います。京都は恵まれています。植木職人の剪定技術は優れているし、鴨川でマグロがとれる(笑)。真に黒いと書いて真黒石、加茂七石のひとつです。石は時を経た風情を表すとき「さびてくる」という言い方をします。しかし近年は天然素材のいい石が見つからなくなっています。庭は儚いものです。室内空間やガレージを確保するため容易に潰されてしまう。手入れをしなければすぐに荒れてしまう。生活が変わり、庭と人間との関係が希薄になり、庭師も郊外へ移っています。しかし町家は庭があってはじめて町家といえる。私が作事組の活動に参加したのは、町家の庭が荒れているという危機感をもっていたからです。

造園計画イメージ
造園計画イメージ―木村孝雄筆

 ――今後どのような方向に進んでいきたいですか

 中村 庭をつくる仕事を続けたいですが、親方のようにはなれないと思います。重たい石を運んだり、トラックを運転したりということは自分にできる範囲でやれば何とかなりますが、采配を振り、上に立つ人間としてまずやってみせるということが自分にできるかどうか。まだ見通しはもてませんが、いまの蓄積を活かせる仕事の仕方を模索中です。
 木村 人による部分もあり、この仕事は何年やればできるというものでもありませんが、中村さんは3年くらいで剪定はけっこう上手にやりますよ。きれいにできるようになれば次はスピードが要求されます。庭の手入れにかけられる予算も限られていますから。トラックの運転は横についていないと危ないです。私らはクレーンのついたトラックを扱っていて、トラックごとひっくり返すような危ないことをたくさん経験していますから、しっかり指導する責任があります。うちには中村さんの前にも女性の職人がいました。5〜6年目で結婚退職して和歌山にいますが、すごくパワフルでよくできる人でした。同業者の夫をうまく操縦して現役で活躍しています。奈良の仕事が多いときなど、和歌山から応援に来てもらうこともあります。この業界まだまだ女性は珍しく、これまで女性の親方に出会ったことはありませんが、女性にとってきついところは彼女のようにパートナーに任せて自分は頭をやればいい。これからは女性の親方も出てくると思います。
 ところで『アバター』という映画を御覧になりましたか。3Dの眼鏡をつけるのがいやで平面で観ましたが、現実のものではない植物や風景を描いて、素晴らしい景観を創造しています。こういう作品に刺激を受けながら新しい庭の造形を考えるのも大切なことです。
 中村 私も観ましたが、植物が現実より強い光を発していたり、山が宙に浮かんでいる光景が印象的でした。
 木村 彫刻作品ではよくありますが、支えるものに鏡面や透明感のあるものを用いれば浮遊感を表現することができます。

――建築家に知ってほしいこと
 木村 坪庭の土をめくると配管が集められていたり、給湯器やエアコン室外機が置かれたり、設備の都合でデザイン変更を余儀なくされることが間々あります。庭を主に考える立場として、そういう状況はもちろん好ましくない。日当たりと雨露なくして樹木は育たないことも知っておいてほしいです。しかしいちばん大切なのはお施主さんの思いです。庭に託された夢、希望、祈りを汲みとることが大切です。

 ――好きな庭とその見所を教えてください。
 中村 東福寺方丈八相庭が好きです。北庭の苔と石を市松に配したモダンな庭が印象的です。
 木村 私の師匠である荒木芳邦と重森三怜の作です。荒木は世界をまたにかけて活躍した作家です。重森は作事組の佐藤嘉一郎さんの師匠にあたる人で、全国の庭を実測調査した歴史に残る巨人です。詳しいことは佐藤さんに聞いてください。

〈聞き手・森珠恵(作事組事務局)〉

※会社メモ:株式会社京都景画/社員3名
  所在地 京都市右京区嵯峨大覚寺門前堂ノ前町22番の113

(2010.3.1)