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京町家作事組
作事組の職人さん・その5

畳職人

(東奥畳店)
 表を剥がす
表を剥がす 加藤さん
 今回は畳工の東奥宏幸さんにお話を伺います。東奥さんは東奥畳店の三代目としてこれまで12人のお弟子さんを受け入れ、京都畳技術専門学院の競技会で続々優勝者を出した実績をもち、その技術と指導力が高く評価され、平成17年京都府の現代の名工に選ばれています。店先で黙々と作業する二人のお弟子さんは前本康宏さんと加藤和幸さん。東奥畳店に弟子入りして7年目の前本さんは機械で縫ったり包丁で炉を切 ったりと場所を変えながら色々な作業に取り組んでいました。加藤さんは何枚も積み上げられた畳の表と縁を剥がす作業をしていました。単純な作業のようでいて、畳床を縫い締めてある糸まで切らないよう注意しながら不要な糸だけを取り除く丁寧な仕事が求められます。足下には切り取られた大量の糸屑が落ちていました。表替えを引き受けた古い畳には不要な糸が蓄積されていたり、糸で縫着せずに金属釘だけで留められたものもあり、何百という釘をすべて取り除くのは骨の折れる作業です。

―京都畳技術専門学院について
 50年以上の歴史があります。高校卒業以上の条件で全国から畳屋の子弟を受け入れています。普通科は2年、研究科は2年弱の課程で、生徒は学院が認める畳店に所属しながら、週に二日、畳製作のほか経営や教養の授業を受けています。2,3年前は15名程いましたが入学者は減ってきています。よっぽど親の援助でもなければ、これから畳店をやっていくのは厳しいですから。毎年11月には学院の競技会が開かれます。各学年の生徒が会場で畳を製作し出来映えを競うのですが、うちでは練習で同じことをやらせて、だめなところは何度もやり直しをさせます。ずいぶん叱りたおしたけど、加藤もこの競技会で優勝するまでになりました。

炉を切る
炉を切る 前本さん
丹波裏
丹波裏 手縫い
―道具について
 一般的な京間は六尺三寸に幅が三尺一寸五分ですが、部屋にあわせて畳一枚一枚の寸法を割り出します。畳採寸用の差しは三尺五寸、建具採寸用は三尺と決まっています。差しや待針など近頃はアルミやステンレス製のものもありますが、この竹製の差しはお祖父さんの頃から使っていたものです。私は中学の頃からこれで寸法を取っていました。こうして差し込んで二本つなげれば七尺です。この待針も古くて鋼ですね。頭の部分に丸い穴がありますが、使い方は色々あって、固い床に刺した待針が抜けなくなると、この穴に別の待針を通して引き上げれば楽に抜ける。包丁は京包丁と江戸包丁があって刃の形状が違えば切り方も違うけれど、江戸包丁の方が使いやすい。小定規は手に馴染むように自分で作ります。

―百年使える畳
 得意先や町家の改修現場などから引き上げた畳を倉庫に置いていますが、縁なしの坊主畳から韓国製の畳まで色々あります。かつて畳の需要に対し国内の生産だけでは追いつかず韓国で作らせた時期がありましたが、虫の問題もあるし質がよくないので今は使いません。これは重いけれど、いい床は藁の厚みのわりに軽いです。町家の改修現場などで、機械化される以前の古い手床の畳を見ると、今ではあり得ない良質の材料や職人の技に出会うことがあります。そういうものは百年でも使える。縫い方にも色々と学びたいものがあります。これなんかよく見ると縫い目をみせないように縫ってある。こちらは手縫いの丹波裏です。ムラがないでしょう。今やろうと思っても時間がかかってできないでしょうね。こんな仕事をされると畳屋は商売になりません。

 
〈聞き手・森珠恵(作事組事務局)〉

※会社メモ:東奥畳店 社員3名
 所在地 京都市上京区千本通五辻上ル牡丹鉾町548

(20107.1)