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京町家作事組
作事組の職人さん・その6

瓦師

(松田瓦店)
 瓦師の松田等さんは昭和20年生まれの65歳、京都府瓦工事協同組合理事長、京都府職業能力開発協会会長など要職を多数兼務され、今年4月に黄綬褒章を受章されました。新たに全瓦連(全日本瓦工事業連盟)副理事長に選出され、ますます多忙をきわめる松田さんのご自宅兼事務所へお邪魔しました。

■ 組織の仕事
 表を剥がす
寸暇を惜しみ書類整理をする松田さん
 瓦組合に入って20年以上、だんだん古株になって色んなお役目が回ってくるようになった。瓦組合には親父が世話になったし、組合は本来組合員のためにあるもんや思うてます。
 能開(職業能力開発協会)は、技能士会と協働でものづくりの技術振興をしてる。学研都市に「私のしごと館」をつくった雇用能力開発機構、あれとは別やで。機構は国、能開は府の管轄や。京都府の「現代の名工」というのがありますやろ。前号の方(東奥宏幸さん)もそうやった。畳や瓦のほか造園や溶接、料理、菓子作りまで色んな分野の「名工」が集まる「魁の会」いう交流会があってな、能開は魁の会の事務局もやってるわ。
 全瓦連は全国47団体3,000以上の瓦事業者が参加する大きな組織。基本的に各都道府県からひとつの団体が代表として加入する決まりで、京都の瓦組合はちょっと前まで北と南で別れていたのを統合した経緯がある。

■現場の仕事と技能伝達の場
 現場仕事の割合は大体3割程度や。仕事の少ない時に現場にいたら邪魔になるしね。うちの職人は3人、歳は上から60、38、24。いちばん若いのは型枠大工から転向して2年前にうちへ来た。まだ瓦葺きはできん。物運ぶくらいはできるけどな。私の考えは習うより慣れろで「自分がやれると思ったらやれ」いうけど、上のもんらが「後でやり直すのはかなわん」というのもわかる。来年は学校へ入れようか思てる。京都瓦技術専門学院いう組合の持ってる学校や。課程は2年。瓦店からしたら実技だけで結構やけど、瓦の歴史、道具、施工図(瓦ではなく大工のですよ)、法規やなんかの座学もあって瓦施工の基礎の基礎がやっと学べるくらいや。もちろん法規も知っとかないかんけど、実技は熱心、座学は身が入らんという生徒が多いわ。学院の財源は、授業料や瓦組合の負担が3分の1、京都府と国の助成が3分の1ずつやから、府や国の方針で学習項目ごとの時間が決まっていて、実技ばかり教えるというわけにはいかんわな。瓦の学校は全国に7校、静岡、愛知、滋賀、京都、大阪、奈良、福岡にある。この7校で全国訓練校協議会を作って、ふた月に一遍ほど集まって情報交換をする。そういう全国の連携や教科書の改訂は、全瓦連の事業としてやってることや。

炉を切る
土間のいぶし瓦 日光を避けて保管
丹波裏
松田瓦店 三条通りに面して建つ
■瓦の種類
 瓦の種類は数が多いから難儀や。素材や焼き方の違いやと、いぶし瓦、陶器瓦(釉薬瓦)、セメント、スレート、それに和形、洋形という形の違いもある。いぶしや陶器の粘土瓦とスレート系を比べたら、厚みは瓦が2cmに対し、スレートは7mm、使う枚数は瓦やと最大のもんを使っても坪あたり53枚、スレートは大きさにもよるが、だいたい坪8枚から20枚ですわ。建物の部位によっても袖瓦、軒瓦、一文字瓦を使い分けるやろ。切妻屋根は5種類から、寄棟やと8〜10種類の瓦がいる。入母屋はそれ以上や。京都はええかっこしいが多いから、玄関あたり入母屋が結構あるんちゃうか。
 瓦の産地は石州(島根)、三州(愛知)、淡路が三大産地。寒冷な石州の瓦は1200〜1300℃の高温でよく焼けていて硬い。窓から放り投げても割れへん。その代わり加工し難く技術がいる。寒いところには頑丈な石州の瓦を使うのがいい。京都やと、交通の便が悪かった時代は淡路から仕入れるのが普通やったけど、いまはどこからでも運べるから、色合いや格好の好みで選べるようになった。瓦に似せた軽い素材の新しい製品も出てるけど、私らはあまり好みません。やっぱり見てたら重みがない。

■瓦葺きの技術と伝統
 屋根は葺き方によってもいかつくなったり、なだらかになったり。京都は差し込み葺きで、軒から棟へ、右から左へ葺いていくが、九州はかぶせ葺きで左から右へ葺く。それでいくと最後に袖が余るので瓦を切って使うことになる。京都や奈良には1400年からの瓦葺きの歴史があり、専門の瓦師がいて技術が伝わってきたが、九州では手伝いさんとか、まあいうたら素人が簡単なやり方で葺き始めて今もそのままなんやろう。いま全国競技会で優勝するような職人はたいてい京都で修行した人や。長野も最近いいみたいやけど。
 瓦葺きの仕事は、まず頭が回転しんとダメや。杓子定規で最初に決めたとおりにしか出来んようやと最終的に納まりません。瓦は粘土で作られるが、その粘土を焼成する温度が高くなるとひねりがかって歪みがでる。この歪みを「ねじ」いうんやけど、土葺きやと瓦のねじを土の載せ具合で調整する。桟葺きになって調整がきかなくなったが、瓦の製造技術が上がって均質化してきたから何とかなってるんやないかな。

〈聞き手・森珠恵(作事組事務局)〉

※会社メモ:
松田瓦店 創業大正期 社員4名
  所在地京都市右京区太秦井戸ヶ尻町21
(2010.9..1)