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京町家作事組
作事組の職人さん・その7

表具師

(若林愿鴻堂)
 西陣、北野商店街の一角にある京表具の老舗、若林愿鴻堂の若林荘造さんにお話を伺います。

■ 家業のこと
 表を剥がす
若林荘造さん(若林愿鴻堂にて)
 若林愿鴻堂はあと6年で創業100周年、私は2代目です。子供の頃から家業を手伝っていましたし、男兄弟がなかったから後を継ぐのに特別なにも迷うようなことはなかったですねぇ。店はいま次男と二人でやっていますが、私は今年71歳、もう歳だからしんどい部分もありますし、腕は息子の方がいいくらいです。表装の技術を競う場というと、表具組合主催の表美展があります。今年も10月末にみやこめっせで開かれます。

■表具今昔
 表具の仕事を始めるときにまず必要なのは作業台。ここにある台は元々9尺(約2m70cm)あったんですよ、一枚板で。この場所に納まらないから切りましたけど。厚みも相当でした。いまの2倍ほどあったかなあ。これまでに2回削って半分くらいになりました。
 糊も表具には欠かせない材料です。水を少し加えて練るんです。子供の頃は年に一度、銅版の鍋で糊炊きをしていました。寝かすうちに青カビがはえてね。糊はでんぷんでしょう、戦後しばらく食べる物がなかった時はよく食べさせられました。おいしかったですよ。いまは材料屋さんでいい糊が手に入るから糊炊きはしなくなりました。材料屋さんに行けば、布、裂(きれ)、紙、引手金具、なんでも大抵揃います。
 うちはずっと手仕事でやっていますが、表装も機械化が進んでいます。手作業では掛け軸一幅ひと月から一月半かかりますが、機械だと一週間でできるんじゃないでしょうか。ただ機械でやるとやり替えができない。剥がせないんです。屏風の蝶番にしても、金具を使わずに和紙を裏表交互に貼る紙蝶番なら折り畳めるし、広げたときにもすき間ができない。そういうこともまた棟梁塾の講義と実習で色々教えてあげたいと思っています。
 表具はやはり京都が中心です。西陣があるから材料もいいものがあります。地方の表具屋の子弟が修業にやって来て、箔を付けて帰っていくんです。一時期、関東にすっぱ抜かれたこともありましたが、数年前に再び京都に戻ってきました。ただ和室が減り業界全体として仕事が減っていることは確かで、組合の青年会にいつも発破をかけておりますけど、これから表具師になろうという人はやはり少ないでしょう。京都表具協同組合の加入店がいま104やったと思います。多い時は180ありましたけど、仕事が減って続けられなかったり、後継ぎがなかったりで店たたみはったんでしょうなあ。でも近ごろ表具に興味をもって学びたいという女性がけっこういはるんですよ。

■様々な注文にこたえる
炉を切る
額装 アクリル板 若林荘造作
 この仕事は、襖、障子、屏風、衝立、掛軸、額装と幅が広くて、いつどんな注文が来るとも知れない。変わった注文にも応えられないとねえ。変わった注文こそ「さて、どうしてやろうか」とあれこれ考えるのは面白いものです。例えば衝立の両面から丸い絵が透けてみえるようにしてほしいという注文がありました。ガラスを入れて挟み込んだらというと、ガラスを使ったら両面から見えるのは当たり前と言われて弱りましたけどね。
 また、ある現場では、桂離宮の意匠を模して市松貼りの襖にされまして、材料もよいものをということで、奈良桜井の和紙に京唐紙を使っています。京唐紙の店はいま唐長さんだけです。襖の裏貼りは一般家庭の襖ならだいたい3回、上等品は8回くらい重ねまして、それによって丈夫さや質感も違ってきますので、このときはやはり裏張りにも手をかけました。色々な点でお施主さんの要求が膨らみ、全体として当初の見積を大きく上回る長期の仕事になりました。
 少し前になりますが、めずらしい仕事というと、二条城本丸御殿の欄間ふすま12枚を新調したことがありました。後で自分の仕事を何度か見に行きましたけど……緊張しましたねぇ。手元に残っているのは感謝状一枚だけなんですけどねぇ。

〈聞き手・森珠恵(作事組事務局)〉

※会社メモ:
若林愿鴻堂
 所在地 京都市上京区中立売通六軒町東入四番町122-15
(2010.11.1)