沢辺和真氏(右) ──建具とは? 建具をひと言で言うと、“動く壁”です。戸、窓、障子、葦戸、衝立…うちでは全て木製で、手作業で作っています。原木から仕入れて乾燥、製材まで、自分とこでやってます。大工さんが使う木材と建具屋が使う木材とは少し違うんです。建具は反らないことが大事ですから、板目でなく柾目を使います。そして、充分に乾燥させることが大事です。水気を含んでいると、時間が経つとやせてしまう。釘を使わない建具は、木がやせると抜けたり弛んだりするんです。木の種類は主にスギ、ヒノキなどの針葉樹です。戦後の建具はほとんどが国産の木で、家の中はスギ、外はヒノキというのが普通でしたが、今では高価になり、輸入材が多くなりました。輸入材は育った気候が違うので、日本の湿気に弱く、黒くなってしまう。日本の材は色が変わりません。日本の赤スギは世界一美しい木だと思いますね。 木製の自転車 ──京都の建具は 京都は地味好みですね。何事も控えめに、というのが特徴。でも素材にはうるさいですよ。そして、部材が細いです。他の地域に比べて障子は3ミリ、框なら5ミリ細い。他所の人にはケチってると言われるけど、細いぶん細工が難しいんです。 昔は建具をはめるのは大工さんでした。建て合わせ(取り付ける時の微調整)ができるかどうかで、大工さんの腕が試された。建具は真四角で、いわば定規みたいなもの。工事の最後に建具をはめることで、大工さんや畳屋さんの仕事がきちんと出来ているかのチェックになるんです。だから、建具の材がこれ以上削れないというとこまで細いのは、建具を削って調整しなあかんような誤差はない、という大工さんの自信の表れでもあるんです。 ──木を扱う技術 建具の作り方も、時代で大きく変わってきています。今の住宅は蝶番などの金物先行。滑るように閉まるもの、指を挟まないもの…など機能性が求められるようになり、新しい金物が次々に出てくるので、その勉強が大変です。 作事組で改修するような町家の建具は昔から変わらない基本の仕事ですが、難しいことも多いです。木組みにも、用途に合わせていろんな技術がある。お寺の格子などに使われる複雑な“ねじ組み”。桟を面取りして細く見せる“猿面”。これは格の高い家の障子や天井の竿縁に見られます。こういった技術も、仕事がないと職人は覚えることができません。特殊な道具も必要になるし、今では数寄屋大工さんにしかできないんじゃないかな。 ──建具屋の2代目として 僕は次男坊なんです。小学校から高校までずっとサッカーをして、プロになりたいと思っていた。けど進学を考えた時、自分にはサッカーで食べていくのは無理だと悟り、長く続けられる仕事をしたいと考えて建築学校に入りました。その後、20歳で金沢の造作屋さん(内装業)へ丁稚奉公に行きました。作るだけでなく計算や営業についてもみっちり教えてもらい、3年間で10年分の仕事を覚えたと思います。京都に戻ってからは、父の下で修業を続けました。今は経営にも携わっています。 いちばん印象に残っている仕事は、大覚寺の舞良戸(まいらど)の修繕です。150年前に作られたもので、釘も糊も使わずに組んであるので、コンコンと叩いたら外せるようになっている。それをばらして傷んだ箇所を修繕し、漆を塗り直して組み直すという作業で、2枚の戸に半年かかりました。機械もない時代に、信じられないほど完璧な仕事がされていました。ヒノキのいい匂いもまだ残ってるんです。滑車は樫の木で作られていたのですが、全然すり減っていないのには驚きました。木の建築が1000年もつというのも納得できます。 ──建具をもっと知ってもらいたい 年配のお施主さんには木をよく知ってはる人もいて、木の種類を指定されたりします。けど、若い人の中には“建具”と言ってもわからない人も増えた。夏は葦戸に替える、なんて知らない人がほとんどちゃうかな。家具も安い大型店で買い、簡単に捨てるような時代。でもその人達が未来の消費者になるんだから。建具のことを、もっともっと知ってもらいたいです。 *** 若手として建具の将来を真剣に考え、ものづくりの大切さについて熱く語ってくださった沢辺さん。日本の木造技術を担う職人さんとして、これからのご活躍が期待されます。 聞き手:常吉裕子(作事組事務局) ※会社メモ:有限会社 サワベ 京都市西京区上桂御正町69-1 (2011.11.1) |