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京町家作事組
作事組の職人さん・その21

板金

(ストロベリーセブン)
 今回は、ストロベリーセブンの橋爪さんにお話を伺いました。板金屋さんとは思えないユニークな社名もさることながら、ご本人もとても面白い方です。

――板金の仕事とは?
 板金というのは、金属の薄板を加工して取り付ける仕事のこと。うちは屋根の板金屋です。屋根屋は大きく分けて3種類あるんやけど、瓦屋根、瓦以外の屋根、そしてビルの屋上などの平らな防水屋根。うちとこは瓦以外の屋根をやります。板金屋なのでトユ(樋)も作るよ。
 屋根材には、原板メーカーと加工メーカーとがあって。取り付け専門の屋根屋さんは加工メーカーから製品を買って取り付ける。うちは金属の原板を買って加工もします。お茶室なんかの部材は細かすぎて既製品が無いから、加工せんとあかんのよ。
 使う材料は、基本的には金属板。昔は鉄の上に亜鉛メッキしたトタンが使われていたけど、今はガルバリウム鋼板といって、亜鉛・アルミ合金メッキのものが主流です。今ちょうど見積りを頼まれてるのはお寺さんの屋根なんやけど、一文字葺きになる部分をチタンで貼ってほしいという注文。手間は銅板の2倍、値段は3倍。その代わり耐久性はすごいよ、200年はもつと言われてる。ただ、普通の住宅やとそんなに必要ないわな(笑)。
 樋やアンコウはこだわるお施主さんもいるね。銅にしてほしいとか。銅樋も、昭和の中頃に塩ビの樋が出てきてから少なくなった。昔の銅板って、今のと作り方が違うのよ。昔は叩いて板状に延ばしていたから、部分によって厚みがバラバラ。それに叩くのも限度があったから分厚くて、平均1mmほどの厚さがあった。大正時代とかに建てられた家の古い樋を外しに行ったら、すごく重いんよ。だから当時は銅の樋は一生もんと言われていた。今は機械で引っ張って延ばすから、0.35mmなど薄いです。

――オールマイティさが求められる板金屋
 うちでは町家の仕事は8割位かな。お茶室やお寺の仕事も多いよ。木造建築がほとんどやけど、何千平米もある工場の屋根なんかもやる。扱う商品が多いんです。ある日は屋根貼って、ある日は壁を貼って、樋を架けて、また別の日は加工してる。そんなわけで、同じ材料で同じパターンの仕事をするということがなかなかない。だから覚えることがものすごく多いのよ。年明け(ねんあけ)するまでに一番時間がかかる業種かもしれんね。仮に屋根を貼れるようになっても、次に雨漏りという問題が加わります。雨漏りもケースバイケースで、建物や立地条件によっていろんな種類がある。原因が見つかったら直せるけど、その原因を見つけるのが難しい。そこまで一通りこなせるようになるには20年位かかるなあ。他の業種の職人さんがどういう仕事をしてどう納めているか、全部わかってないとあかんからね。建築の知識が必要やし、いろんなことを覚えるよ。僕は自分で家を建てたんよ。農家を移築してね。解体や基礎工事も、左官と建具以外は全部自分で、10年ほどかかって完成させた。今は小屋を作ったり木を植えたりしてるところ。

――板金の道に入ったきっかけ
 見習いの時期を含めたら37年位になるかな。たまたまアルバイトに行った所が板金屋さんやった。電子関係の高校を出て、大きな会社に勤めるのがイヤやったから近所の町工場で働いててんけど、潰れたんや。内職に来ていたおばちゃんに「ここ潰れたわ〜」言うたら(笑)、「うちのお父さん忙しい言うてるし来るか?」と。アルバイトのつもりで行ったら面白かった。毎日扱うものが変わるし、いろんな現場に行ける。一生懸命仕事して、とことん覚えた。性に合ってたんやろね。7年ほど働いて、ある日、親方とケンカして辞めたんや(笑)。

――仕事の面白さ
 他の人が何回見に行っても直されへんかった雨漏りを見つけて直せた時、これは痛快やね。雨が漏れ出てくるのは目に見える。でも、どこから雨が入ったのかは、経験がないとわかれへん。怖いのは、表に出てこない時。見えへんかったら、漏ってへんと思うわな。でも雨が壁の中を通って下まで漏ってる場合、これは気がつけへんから怖い。それを予測できるとかね。気がついたら柱や土台が腐って、にっちもさっちもいかんようになるのは、かなんわな。
 僕は経営者やけど、今も現場で施工してるよ。一番面白いと思うのは、よその職人さんにはできない技術レベルの仕事やね。むちゃくちゃ難しい仕事をやってみたい。これ、どうやってやるんやろう?と悩むような。アンコウなんかも、難しいよ。今、アンコウを作れる人は少ない。そのうち出来る人もいなくなるやろうね。難しいけど一番儲からない。伝統工法ほど儲からんね。建築に限らず、高度な技術を要するものほど価格に反映されない。町家も維持費がかかるけど、でも、それだけの値打ちがあると思うよ。

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 趣味は釣りにヨットにF1観戦、さらにはロイヤルコペンハーゲンの蒐集(!)など数え切れず、行動的で、興味があることは全部やってみるという橋爪さん。器用で万能という印象ですが、板金屋さんが誰しも同じというわけではないはず。ずっと不思議に思っていた「どうして“ストロベリーセブン”?」…同じ疑問を持たれた方、橋爪さんの思うツボです。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

会社メモ
株式会社 ストロベリーセブン
京都市上京区浄福寺通上立売上ル大黒町701

(2013.3.1)