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京町家作事組
作事組の職人さん・その26

大工

(堀内工務店)
釜座町町家の庭にて。シャイで気持ちの優しい堀内さんです。
 今回は堀内工務店の堀内健さんにお話を伺いました。お父様の代から作事組に参加頂いています。

――優れた職人だった父祖の跡をついで
 私は西陣の町家に生まれ育ち、13才までそこに住んでいました。小学校の同級生は80人中70人が“糸偏”業の家庭で、町家以外の家に住んでいるのは5、6人という環境でした。周りの家は皆、住居部分が2部屋でその奥に仕事場があり、両親に祖父母、家族全員で仕事をしている家庭。早朝から夜遅くまで織機の音が響いていましたね。私の家は、曾祖父の代から工務店を営んでいます。私は、商学部でマーケティングを専攻していたんですが、大学4年生の時にお祖父さんが亡くなりまして。家業が大変な時期があり、手伝うことになりました。最初は京都建築専門学校の夜間部に通いながら、現場でひたすら雑用を繰り返す日々でした。今思えば、よそで5年位修行させてもらえば良かったと思いますが、当時は家の仕事を手伝うしかありませんでした。掃除、運び、左官屋さんや瓦屋さんの手伝いなど、現場仕事は何でもやりましたよ。うちでは職種に関係なく、手の空いた者は誰の手伝いでもするようにしているんです。
 現在は兄が社長で主に経営面を、私は現場の指揮やお施主様対応をしています。長年出入りさせて頂いている家も多いですが、お祖父さんはこうやった、お父さんは黙っててもこうしてくれはった…と言われてしまうこともあります。数年前に亡くなった父には、ファンがたくさんついていました。寡黙で真面目、細かい仕事をする、本当に職人気質な人でした。問題が起これば全て自分の手、仕事で解決していましたね。そのため寝込んでしまうことも多かったです。そんな父からは大きな影響を受けましたが、自分は父とは別の事で勝負しなければと思った。それで始めたのが、バリアフリー化の工事です。まだそんな名前も付いていない頃からバリアフリーを広める組織づくりに関わり、相談員になって約25年になります。バリアフリー工事といっても、症状や車椅子の種類、家族構成、家の構造などによって一軒一軒違います。町家でも開口部を広げ、床をフラットにすればある程度のバリアフリー化は可能です。トイレやお風呂場は大人2人が入れる広さを確保すれば大丈夫。これは講演する時に必ず言うのですが、介護を受ける人のことだけを考えて改修をすると、失敗するんです。家族全員のことを考えてプランを立てないといけない。一番大事なのは家族内のプライバシーです。それがうまくいった時、改修前と後では、家族皆さんの顔つきががらっと変わる。ぱっと明るくなるんです。それが嬉しいですねえ。

――町家の仕事
 うちは木造住宅の仕事がほとんどですが、そのうち町家は4割位。割合は増えてきていますね。最近では、一度現代風に改修した家を元の姿に戻したいという依頼が多いです。私が子供の頃は、壁にベニヤ板を貼って見栄えを良くし、“東京炊事”といって土間から床を上げる改修が流行していました。「きれいになったなぁ〜」と皆が喜び、そんな姿に憧れていた。今、そのベニヤ板をめくっています。時代が変わりましたね。
 町家の現場は、職人さん達が集まる一つのファミリーのようなものです。3時のおやつには各自ばらばらで一服するのではなく、出来るだけみんな一緒に休憩してコミュニケーションが図れるようにしています。例えば新しい職人さんが入ったら、お互い知り合えますしね。そういうちょっとしたことで、現場の流れがうまくいくんです。お施主さんが現場を見に来られる時も、職人さん一人一人を紹介するようにしています。

――町家への思い
 私が働き始めた頃は、年末にもなると28日頃から31日の夜まで、出入りのお宅にご奉仕に回っていました。手の届かない所の掃除や建具の調整などをするんです。今ではお客様の職業や生活様式も変わり、年々少なくなっていますが、ちょっとしたことでも気軽に呼んでもらいたいですね。家というのは、常にメンテナンスが必要なんです。冬でも朝は必ず戸を開けて空気を入れてほしい。閉め切っていると湿気がたまり、家が傷みますから。今日も建具を1枚替えてほしいと呼ばれましたが、そういうのはこちらも有難いです。ビジネスと考えるのではなく、お施主様とのコミュニケーションを大事にしていきたいと思っています。
 町家の改修はひとつひとつ収まりが違うため難しく、そして時間がかかるものです。でも待たれた分、この先100年以上もつ良いものが出来る。町家の現場では、完成した時に安堵感というか、しっくりくる感じがあるんです。大工さんが木を削って加工して取り付け、左官屋さんが土を塗って…というように、様々な職人さんが時間と手をかける。そのプロセスの中に職人さんの魂が入っているんだと思います。お施主様にそれを感じて頂けたら嬉しいです。

***

 住み手と作り手、互いに世代が代わっても、共にその家を引き受けていく。そこには技術だけでなく目に見えない心遣いが必要で、京都ではそれこそが大切に引き継がれてきたのだということ。「ビジネスではない」堀内さんの一言から、町家文化の根底を流れるものを伺い知ることができた気がします。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

会社メモ
 有限会社 堀内工務店
 京都市北区大宮西野山町4

(2014.1.1)