昨年作事組に入会された株式会社マツモトの松本照明さん(39歳)にお話しを伺いました。 ――来歴について 祖父の代から畳業をはじめ、家族経営で畳業を続けながら、父の代で建具やリフォーム業にも手を広げるようになりました。伏見桃山城の影響なのか、畳店が密集する地域に会社はありますが、時代の流れで伏見の畳組合はここ10〜15年のあいだに組合員の数が半分になり、40代が3人ばかりで後を継ぐのは少なくなってきているという状況です。畳だけでやっていくのは厳しい時代ですね。 私は高校を卒業後1〜2年父のもとで修業し、20歳の時、アラキ工務店に入社しました。アラキ工務店で8〜9年、大工見習いから大工となり、二級建築士を取得させてもらいました。アラキ工務店につとめていた時には作事組の町家の現場も経験しました。それから実家に戻り、今に至ります。実家では畳や襖・建具の販売や修繕をしたり、ご近所さまや知人の紹介でリフォームの仕事もしています。 ――畳のよさ 床はフローリングが増え、畳の需要は減っていますので、材料としてもっとほかの形で使えないだろうか、たとえば天井や腰壁に用いてはどうかとあれこれ考えたりしますが、畳はいまのかたちで完成されつくしていてアレンジしにくいですね。 フローリングの場合、床に敷居がつきささっているので張替えようと思うと建具にも影響しますが、畳だと収めるだけですからメンテナンスや取り替えがしやすいです。畳は丈夫で床としての機能性も十分で1950〜60年代ごろの急ごしらえの家など、床材はベニヤが貼ってあるだけのことがあり、床板がぼろぼろになっていて畳でなんとかもっているようなところもあります。 ――畳の手入れ 夏は雑巾をかたくしぼって拭きます。冬は乾燥しますのでうるおいを与えてやるといいです。いい畳は黄金色に光ります。品質の劣るものは枯れた草も入っていて茶色です。おじいさんの時代には、さらの匂いを届けるといって拭くことをせずそのまま届けていました。いまはしっかり拭いてきれいな状態でお届けします。 ――強み 設計から墨付け、全体に携わり、元請と下請けの両方の立場を経験していることでしょうか。下職として建具も畳もやりますので他の業者とぶつかることなく、建具の建てあわせ後に畳を入れることができます。ただときに日本建築の決まりごとが現場で失われていると感じることがあります。たとえば障子と襖の溝の違いを区別せずに敷居や鴨居ができている場合。それは現場の下請けが口を出してはいけないことで、違うとわかっていて障子の溝に襖を入れることもあります。そうすると隙間風が入りやすいですよね。他の立場が見えすぎるのも考えもので、思うところがあっても何でも言ってよいわけでなく、そのときの自分の立場をわきまえなくてはいけない部分があります。 ――仕事のやりがい 無垢材はノミやカンナを使って手直しできますからやりやすいです。シート貼りラッピングではできません。この仕事のやりがいは、ものづくりの楽しみにあると思っています。大きいものができあがっていく喜びというのでしょうか。今後も昔からのお得意先を大事にしながら、幅広く技術を身につけて一軒の家をつくる醍醐味をあじわえるような仕事をしていけたらと思っています 会社メモ 株式会社マツモト 京都市伏見区銀座町2丁目326−5 聞き手:森珠恵(作事組事務局) (2015.11.1) |