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京町家友の会



 (八)

 今度わ大(おー)きー海に出た。そいで、王(おー)さんから教(お)せてもろた船乗りを見つけだすと、「どないしたら、わたしも偉らい人(しと)に成れますにゃろか。教(お)せてくれはらしまへんやろか。」
と尋ねはった。
  「よー来(き)とくなはった。近頃、根っからお客が来(コ)ンチキチン。ま、わいの船にお乗りやしとくりゃす。海のことやったら、えら知りや。そら、世界中の港、知ってるし、どこに宝島が居(お)して、どこに人(しと)を食(く)ー化け物(もん)が住んどんのか。どこの海の底に恐ろしー竜(りゅー)が居(い)よって、どこに危ない渦が巻いとんのんか。海の色、空の色で、嵐が来(く)んのか、竜巻が起こんのか。お日(ひー)さんにおっ月さん、お星(ほっ)さん見たら、今わいらがどこに居(い)んのかかていちころや。ほやから、長い船旅かて往生(おーじょー)すること、おへん。まあ、人生(じんせー)かて、生れてから死ぬまでの旅でおす。物事をよー学んで、いっつも自分がどっちに向こーたらえーか、よーお考えやしたら、必ず偉らい人(しと)にも成れんのとちがいますやろか。さ、着きましたで、お疲れさん。」

(九)

  海の上に、岩に囲まれて、そびえる山わ、フダラカ山(さん)。あたりわ、きれーな花に覆(おー)われ、何(な)んや知らん、おいしそーな果物(くだもん)のなる木(きー)が、いっぱいや。森の中にわ泉が湧き、えー香(かおり)のする草を分けて、小川が流れ、きれーな沼に注いでる。
  善財が山登ってくと、涼しそーな岩陰に、仰山(ぎょーさん)のきれーな着物(べべ)着たお人(しと)らが集まったはる。よー見たら、それぞれ、いろんな宝石(ほーせき)の上に、じょろ組んで坐ったはる。ほんで、ダイヤモンドの上に坐って、お話をしてお居(い)やすのが観音さんやった。手(てー)にわ楊柳(よーりゅー)てゆー柳の小枝を持ち、根際(ねき)にお薬びん置いてはった。
  善財わ、丁寧(てーねー)に丁寧(てーねー)に、お辞儀をして尋(たん)ねた。
  「まことに恐れいります。どないしたら、わたくしかて偉らい人(しと)に成れるか、教(お)せておくれやさしまへんどすやろか。」
  ほんなら、観音さんわ、優しーお答えにならはった。
  「よー訪(たん)ねてくれなはった。わたしわ、いっつもわたしのことを信じてくれてお居(い)やすお人(しと)やったら、どんな悩みを持ったはっても、「観音さーん」て、呼んでくれはりさえしたら、必ず助けたげよと、誓(ちかい)をたててます。どこえでも、すんぐに飛んでって、いろんな者(もん)に変身し、優しー声をかけ、ときにわ強い力で悪者(わるもん)を懲(こら)しめ、光の輪(わー)に包んで、お人(しと)らを救います。怖い目(めー)に会(お)ーたとき、熱でうなされたとき、縛られ殺されそーになったとき、貧しさ、争そい、病(やまい)や死(しー)、愛や憎しみなぞ、どんな悩みや恐ろしさからも救(すく)ーたげますのや。」
  善財わ、喜こんで、人(しと)を救(すく)ーてゆーことを、一所懸命(いっしょけんめ)、学んで、また旅に出たんや。

つづく

※アンダーラインのある言葉は標準語の吹き出しをご覧下さい。