(十三)
「普賢(ふげん)ぼさつさま。」
と、ぜんざいがつぶやくと、とたんに明(あか)るくなって、そこは、おしゃかさまのおられる、ギオンショウジャというところ。光(ひかり)の輪(わ)につつまれた、おしゃかさまの、右(みぎ)には普賢(ふげん)さま、左(ひだり)には文殊(もんじゅ)さまがおられ、まわりには大(おお)ぜいのお弟(で)子(し)さまがおられました。
普賢(ふげん)さまが、おっしゃいました。
「待(ま)っていたのですよ、ぜんざい。苦(くる)しいことに負(ま)けずに、長(なが)い旅(たび)をおえました。この大(おお)ぜいのお弟(で)子(し)の中(なか)でも、ほんの少(すこ)ししか学(まな)んでいない人(ひと)には、わたしの名前(なまえ)は教(おし)えてもらえない。まして、わたしの姿(すがた)は見(み)えないのだよ。あなたには、もう見(み)えますね。ぜんざい。あなたは、もう、りっぱな人(ひと)です。今日(きょう)からは、ぼさつ(・・・)という、おしゃかさまのお弟子(でし)になって、いっしょに学(まな)びながら、世(よ)の中(なか)の人(ひと)びとのために、はたらくのですよ。」
「ありがとうございます、普賢(ふげん)さま。」
(十四)
ぜんざいが深(ふか)くおじぎをして、ふりかえりますと、前(まえ)に池(いけ)があって、ハスの花(はな)が、いっぱいさいていました。ひとつひとつ、よーく、見(み)ました。が、花(はな)の上(うえ)には、やっぱり、ほとけ(・・・)さまは、おられませんでした。でも、ハスの花(はな)は、とってもきれいでした。池(いけ)も林(はやし)も空(そら)も、見(み)れば見(み)るほど、まえに見(み)たこともないほど、きれいに見(み)えました。そして、ぜんざいの心(こころ)の中(なか)まで、すっきりしました。
「ほとけさまが見(み)えるって、こんなことかもしれない。」
と、ぜんざいは、にっこりほほえみました。
こうして、善財(ぜんざい)童子(どうじ)さまの、長(なが)い長(なが)い旅(たび)は終(お)わりました。
めでたし、めでたし。
(次回は「あとがき」です)
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