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京町家友の会

2月例会 香里園「八木邸」特別見学会 報告


八木邸 応接間

 京阪香里園駅すぐそばにある八木邸は、京都大学工学部建築学科初代教授の藤井厚二(1888〜1938年)によって設計された。藤井は、2014年には天皇皇后両陛下も訪問された大山崎の聴竹居(1928年)の設計者として名高い。実験住宅として設計した聴竹居、その翌々年に完成した注文住宅の八木邸ということで、自らの理想と施主の意向をどのように形にしたのか、わくわくしながら見学させていただいた。

 現代の住宅からはずいぶん広く感じられる玄関を入り、目線の高さと空気循環が考えぬかれているとの説明をうけながら、高低差のある各室を拝見する。高い窓から明るい光が差し込む食事室に、広くて清潔感あふれる台所。洋行で学んだ最新の技術を、日本人の住まいに落とし込もうとしているのがよくわかる。長い時間をこの家で過ごしたら、天井高、採光などの魅力をもっと感じられるのではと想像しながらの見学である。もちろん、機能の追求ばかりでなく、階段や食事室の天井などの意匠は凝っており、藤井自らが設計したという家具の数々も、美しい。

 最近、今ある町家を完成形と考え、それをただ守っていくことへの疑問を、町家に住まいながらもつようになった。


八木邸外観
 住まいは、その時代の技術、求められる住まい方によって、形を変えていくものだと思う。町家の美しさ、風土を汲んだ合理性を活かしつつ、現代の暮らし・家族に沿うように、町家設計の基本を学んだ作り手(直し手)と住まい手がきちんと考え、構築することで、また次の世代に引き継ぐ町家ができていくのではないだろうか。八木邸での、藤井の挑戦を目の当たりにして、その思いを強くした。

 最後になるが、貴重な邸宅の公開を決断された八木様、丁寧に解説くださったボランティアの岡内様をはじめとする皆様、各地の名作住宅を残すため奔走しておられる竹中工務店の松隈様、そして今回見学の労をとってくださった友の会会員、野澤様に改めて敬意を表し、御礼を申し上げます。

参考文献:片木篤他編「近代日本の郊外住宅地」鹿島出版会、2000年
 松隈章「聴竹居」(野澤好子編集)平凡社コロナブックス、2015年

〈永井美保/京町家友の会会員〉