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京町家友の会

春の例会 京町家友の会会長アトキンソンさんの講演会

 友の会総会に引き続き、アトキンソンさんの講演会を4会合同で開催しました。京町家の再生、ひいては町並みの再生の意義を再確認する機会となりました。

 アトキンソンさんの唱えている観光立国は、日本を訪れる外国人滞在者を戦略的に増やそうというものです。かつて経済大国と言われた日本ですが、それはものづくりの技術や国民性のおかげではない、ある程度の先進国であれば、人口増によって経済が発達するというのは当たり前とのこと。少子高齢化の現代社会において、もはや経済成長は望めないが、観光ならば日本にもまだまだ余地がある、でも今までと同じ施策ではダメ、というのが、基本的な考え方です。

 どちらかというと観光産業や観光化にあまりよいイメージを持っていない私ですが、アトキンソンさんの言う観光戦略は今までの日本の施策と大きく異なっています。これまでは大量の観光客が来れば成功、という考え方が主流でした。国際的なイベントや大きなお祭があれば、観光客がたくさん来て、お金を落としてくれる、という錯覚が今も根強く残っています。たとえば先日の伊勢志摩サミット。サミットにより観光客が増えるか、というとそんなことはありません。前回のサミットがどこであったか(答えは洞爺湖)、そこへ行きましたか(当日会場でもその後に行った人はいませんでした)という事例でも明らかですね。

 もう一つはどんな人にきてもらいたいのか、そういう人たちのために体制やサービスを整える必要があるということです。海外向けの日本のイメージが画一的なことも問題です。桜や着物ばかりでは旅行者も飽きてしまいます。たとえば、旅が好きな国民性といわれているドイツ人向けの工夫などをしているのか、と言われると、確かに少ないですね。

 今、日本が提案すべきなのは、もっといいところやいろいろな楽しみが日本にはある、とアピールすることだ、とアトキンソンさんは言われます。観光において重要なのは多様性。たとえば宿泊施設。最近は格安ホテルが当たり前になっていますが、ゆっくり楽しみたい、お金をかけてのんびりしたい観光客もたくさんいます。つい大衆化、多くの人向けのサービスに目を向けがちですが、本当の旅、本当のリゾートを求めている人たちに十分なサービスが提供できていない、ここに日本の観光の大きな問題がある、ということです。

 さらに自然の美しさももっとアピールできるところだとおっしゃっています。確かに私たちはイベントや「もの」に惑わされがちですが、そこにしかないものを求めるならば、それぞれの地域にある独特の風景こそ、かけがえのない財産ですね。

 さて、京都はどうでしょう。京都の町並みもそんな独特の風景の一つのはずです。京都には社寺を中心とする世界遺産がある、と自慢していますが、その中心にあるまちなかにはどこにでもあるような建物がどんどん増えています。観光のために、というのは何か特別なイベントや世界遺産を形だけ守るのではなく、私たちの住まい、暮らしが「京都」の基盤にあることを忘れてはなりません。京都に来ても、泊まっても仕方がない、と思われるようになったら、観光客に人気の京都もあっという間にダメになってしまうでしょう。

 もともとアトキンソンさんが京町家を所有することになったのは、ご自身の趣味であるお茶を楽しむためでした。どんどん崩れていく町並みを見て、どうこう言うよりも一つ所有してきちんと再生すれば、という気持ちだったそうです。そして京都がダメになると嘆く人たちに、そう言うよりも一つ所有して再生すれば、と勧めておられるとか。

 町家を再生し、住むことは、ある意味京都に住むものの義務のようなものかもしれません。ともすれば長年住んでおられる方々、大きな商いをされている方々など、内側から京都は崩壊しているようなところがあります。経済性を求めているようで、本当の観光産業にはマイナスになっているというわけです。町家を維持できない、新しい建物が建てたいならば他所でやればよい、とまでアトキンソンさんはおっしゃっておられます。過激な言葉かもしれませんが、本当に観光によって経済効果を求めるならば、まず京都の人が京都を魅力的なところにしなければなりません。

 古いもので我慢するのではありません。ご存じの通り、再生研は保存ではなく、今の時代にあう伝統木造のきちんとした暮らしを再生できるのですから。町並みを美しくしながら快適な暮らしを維持することができるのです。それが経済効果につながるのであれば、ありがたいことですね。

 講演の終了後は、懇親会で大いに盛り上がりました。終了時間がきてもなかなか解散とはならず、アトキンソンさんとの交流を始め、4会それぞれの課題を議論することができ、とても充実した一日でした。

*実施概要
日時:平成28年5月8日(日)
場所:京都大学百周年時計台記念会館 国際交流ホール

友の会第17回定時総会 13時から
講演会 13時45分から
懇親会 15時45分から
終了 17時