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京町家友の会

京町家でもてなす 小島邸煎茶会



 リオ五輪も過ぎた昨年10月、来たる2020年の東京五輪を見据え、文部科学省を中心とした官民の主催で「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」が開かれた。そのプレイベントとして、京都と東京で数日間にわたる一連の催しに先駆けて、参加者が京町家で様々な体験をするプログラムが組まれた。会場の一つとなった小島邸では煎茶を楽しむ機会が設けられ、スイスよりIOC国際オリンピック委員会の客人が訪れた。

 お茶には楽しみ方が色々ある。濃茶・薄茶のフォーマルな茶席から、茶室に限らず山上での一服まで。今回は広間で輪になって、お喋りも気兼ねなく煎茶をいただく。床の間には、日本にお茶が伝えられた頃の逸話を描いた掛軸と、大きな土瓶にピラカンサとミヤコワスレが生けられている。陶芸家の稲澤隆生氏が自作の道具を使って茶会ごとに設え、配線をカモフラージュする竹は今朝切られてきたもの。リキュールグラスほど小さな茶器が可愛らしい。最初にいただく玉露は、そもそも飲むというよりも一滴の雫に含まれる旨味を味わうため、拍子抜けするほど量が少ない。各々が席順にトレイから茶器を取り、また同じ順番で戻すと、各々の茶器でお代わりが出来る。次に同じ茶葉を、電熱式の炭がスッポリと収まる白い陶製の涼炉(りょうろ)で焙じると、風味が一変する。さらにまた別の茶葉で淹れられる一杯は、苦味も香りも煎茶らしく、後口がサッパリする。各々庭を眺めながら、なじみのお茶について話がはずむ。呉服商の多い室町界隈では、着物の柄を引き立てるためだろうか、あまり庭に花を植えない。猛暑で傷んだ苔も雨後は青々しく、一同見惚れているとIOC女史曰く
「代わりに石が、咲いているのですね」

 小さな茶器で何度でも、いつまでも。話すうちに陽も傾き景色も変わり、日常とは違うけれど肩の凝らない豊かな時間を過ごす。これぞ町家が対応出来る季節ならではの場面だと、続きの間からずらりと屏風の飾られた宵山の様子を思い返し、あらためて町家の懐の深さに感心する。反面、時間の経過を意識するほどの空間や静けさといった環境が、都心では消失し続け、これがいかに儚く貴重な体験かと嘆息せざるを得ない。角地以外は妻壁に大きな開口部を設けず、互いの庭を背中合わせに共有するなど、密集地の知恵が詰まった「京都のまちづくり」が尊重されない限り、
本当の京町家は「まぼろし」になる。