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京町家友の会


お祀りごと 芝田 泰代
 運動会、時代祭、結婚式の案内状、菊花展、紅葉狩り。
 回りがどんどん秋の気配になってゆくなかで、私は一人「秋はきらいやわ」とつぶやいています。いつまで続くのかと思われた蒸し暑さもやっと終わり、「ああ、息が楽になった」と実感するのが、この季節。食事が美味しい。行事が楽しい。でも、朝夕の冷え込みに、ふと冬の到来を感じてしまうのです。夏は快適だった風通しのよい通り庭、みずみずしい坪庭、ひんやりしたお座敷、揺れる棕櫚竹。そのかわりに、ホカロンを2つ貼っても凍える冬が目の前に待っています。さあ、ストーブを出さなくては。今年は火鉢も出してみようかしら。どうせ中毒の心配はいらない家だから。などと、取りとめのないことを思いながら、冬への覚悟をするのです。
 我が家でも、秋は数々の行事のほかに、一年の締め括りとしてのお祀りごとがあります。

ゑびす講
 10月20日は毎年家内中でゑびす様をお祀りします。ゑびす様が鯛を釣り上げているお目出度い画のお軸を床の間に掛け、その前に紅白の糸で尾鰭をピンと飾り上げた鯛と、塩、酒、洗米をお供えして、商売繁盛を祈るのです。1月10日の初ゑびすの方が一般的に賑やかなようで、ゑびす神社も10月20日はひっそりとしています。昔は、ゑびす講といえば年末の行事であり、四条通のあたりには売り出しの店が軒を並べ、お参りと買物の人々でごった返していたと聞きます。実家の祖母からも、年末年始用の買物は、ゑびす講の誓文払で買ったと聞いていました。時期的に変だなと思っていたのですが、旧暦でみると11月下旬(本年は11月24日)になり、これなら年末行事として納得できます。尚、この日は我が家でも、はんぺいとネギのお汁を必ず食事に付けます。はんぺいは小判、ネギは笹に見立てる縁起ものです。
お火炊
 11月になってきますと、京都のあちこちのお寺や神社でお火炊祭が行われます。護摩木を井桁に積み上げ、その上に檜の枝を置いて、炎を天まで上げ、厄払いをするのです。私共の家業は和菓子を製造しており、窯など火の気があるため、社員揃ってお火炊をいたします。護摩木は燃やしませんが、工場の神棚のお不動様の前で祝詞をあげ、仕事の無事故と社員の健康を祈ります。神前には、昆布、するめ、野菜など、海のもの山のものを積み、お火炊まんじゅうと柚子入りのおこし、そして、みかんを供えます。お火炊まんじゅうには宝珠の焼印を押し、紅白で仕上げます。おこしは、火をおこす意があるかと思われます。お参りの後は全員で、お下がりのお酒をいただき、その年の反省と来年への心づもりなどを話し合い、おまんじゅう、おこし、みかんを配ります。お不動様のご縁日は28日のため、例年11月28日前後にお祀りをしています。
 他にも、年間を通して様々な行事や祀りごとがあります。
 8月24日はお仏壇においでのお地蔵様に我が家の地蔵盆。
 9月8日は神棚の薬師様。
 一年に6回、甲子の日には大黒天様。
 お正月とお盆は、特に心を込めて。
 何と気の多い信心でしょう。でも、一年を通して折々に無事息災を祈り感謝をして、秋まで過ごすことが出来れば、全ての諸神、諸仏に感謝出来たことになりますね。これも一つの方法でしょう。

 今年(2002年)の春、京町家再生研究会のご紹介で、木村工務店様に表の部分を店舗にして頂きました。築130年余の木造家は直しだすとあれもこれもとなり、ここまでという結界を決めるのに苦労がありましたが、おかげさまで“心地良く、何故か懐かしい”とお客様に誉めて頂ける空間が出来ました。奥の居宅、蔵とまだまだ手直しする箇所が山積みですが、それは宿題として、ボツボツ片付けていこうかと思っています。永い目で向き合ってゆく。それが古い家とのお付き合いでしょうか。

(京町家友の会会員)
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