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京町家友の会


「忘己利他」「もうこりた」「もう懲りた」 松村 篤之介(友の会会長)

 昨年(平成18年)の10月終わりに近く、久しぶりに比叡山に登りました。或るグループの現地講座が開催されましたので、これに参加。横川から根本中堂へ、紅葉には少々早い秋の好日を歩きました。
 いろいろ聞くところによりますと、比叡山山頂は湿気が多い、そのくせ湧き水が少ない、健康には厳しい環境であるので、住職も70歳を超えると下山して里坊に常住されるとのこと。さすれば山中の修行僧は、本当に苦心惨憺して仏門に帰依しているのだと承りました。
 さて、千二百年前、比叡山開祖はもちろん最澄、伝教法師であり、その教えに「忘己利他、慈悲之極」とあります。
 「忘己利他」は「もうこりた」と読みます。「忘」は「忘年会」のように「ぼう」と読むこともありますが、この場合「もう」と読みます。「忘己利他」の意味は、正しく文字通り、「自分を捨てて、他に報いること」、世に言うボランティアの真髄を表しています。
 ところで、同日参加の万葉学者、K大学名誉教授Y先生のお話。Y先生は最後はS女子大の学長もされたので、毎年3月の卒業式に学長としてこの「忘己利他」のお話をされたと聞きました。その一節「皆さんが今日あるのは両親のおかげ、家族のおかげ、社会のおかげ。だから他日機会があれば、必ずや『忘己利他』を心がけ、ご恩返しをしてください。『忘己利他』を覚えるのに、『もうこりた』『もう懲りた』と覚えると何時までも忘れません。『もう懲りた』ではなくて、精一杯『忘己利他』に励んでください」と毎年学長挨拶をしたとのことです。
 卒業の皆さんには大変評判が良く、また印象深いお話なので、後々までも忘れずに「忘己利他」「もうこりた」「もう懲りた」を実行している旨の反応が大いにあるそうです。
 語呂合わせ、駄洒落気味のお話ですが、得てして忘れがちな私共の心構えを、こうした言葉で覚えこむことは大切なことだと思います。
 大変有意なお話なので、ここにお披露申し上げました。

 悪事向己、好事与他、
 忘己利他、慈悲之極。

 悪事は己れに向かへ、好事は他に与へ、
 己れを忘れて他を利するは、慈悲の極みなり。

 しやすい仕事は他の人にまわし、苦労のいる仕事は進んで引き受け、他の人のあやまちは広い心で許し、社会の人のために積極的に奉仕する、これこそ相手を思ういつくしみ(慈悲)の究極の姿である。

 (出典:比叡山延暦寺HP
   http://www.hieizan.or.jp/enryakuji/jcont/access/livetalk/index.html

(2007.3.1)
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