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京町家友の会


山門前の彩り

紅葉・黄葉
杉崎 光明
(京町家友の会会員/樹木医/東京都江戸川区)
古寺の回廊から望む
古寺の回廊から望む

 若き公達が華やかに舞う、「紅葉賀」の宴。秘めやかな旅窓からのぞむ、紅の里。手品師のように黄金色の葉を舞い散らす、イチョウの古木。そして、黄、赤、オレンジ、茶、緑などのグラデーションに染まる桜並木…。
 早くから予約して心待ちにしたのに、旅人の目に映るのは“茂れる青葉”だったり、“舞い散る落葉”だったり…。うまく京都の「錦秋」に行き会えた人は、それだけで1年分の幸運を手にしたのかも知れませんね。
サトウハチローのハゼノキ
サトウハチローのハゼノキ。童謡「小さい秋」のモデル
銀杏
黄葉散らす手品師・銀杏
 「赤くなるのがモミジ、黄色いのがカエデ」という、楽しい“俗説”を知りました。また、「5裂以上の葉がモミジで、3裂の葉がカエデ(蛙の手)」ともいわれますが…。
 モミジとカエデの違いを考えてみました。
 たとえば、「イロハモミジ」は「イロハカエデ」ともよばれます。図鑑では一方を「別名」としますが、別名の扱いが逆転することもあります。モミジとカエデの混用は、同じ植物名の“語尾変化”のようなものでしょうか。植物分類学では、モミジもカエデも「カエデ科」に属します。
 「木ヘンに風(=楓)」と書いて「カエデ」と読みますが、この漢字は「フウ」という植物をも指しています。たとえば、「唐楓」はカエデの仲間ですが、よく似た大型の葉を持つ「台湾楓」はマンサク科の樹木です。両者は、葉のつき方も実の形もまったく違います。
 「♪秋の夕日に、照る山もみじ…」と歌われた情景は、植物名としてのヤマモミジなのか、あるいは山一面の紅葉なのか…。さらに、“京都サスペンス”に欠かせない女優の山村紅葉さんと、往年の文豪、尾崎紅葉…。
 また、植物文化の定説では、万葉人は「黄葉」を好んだそうです。「東・青・春・竜」、「南・朱・夏・雀」…、など四方位に属性を定め、黄金に輝く中心を皇帝の座とした『陰陽五行説』などの影響が濃い時代の人々にとって、自然の中から生まれ出ずる「黄」色は殊に尊ばれたのでしょうか。
シャコバサボテン
シャコバサボテンの紅葉
 モミジの語源は「紅絹出づる」や「揉み出づる」とされます。晩秋になり、葉の付け根に「離層」ができると葉緑素の分解が進み、隠れていたカロテンの黄色が目立ってきます。これが「黄葉」。さらに、葉に残された糖分から赤色のアントシアニンができると「紅葉」になります。葉緑素の分解は低温により、アントシアニンの生成は日照により促進されます。また、果物が色づくのも同様のメカニズムです。
 最近の研究によれば、紅葉をはじめ果物や緑黄色野菜が色づくのは、植物自身が行う「UV対策」だと考えられています。アントシアニンやカロテン、リコペンなど赤や黄色の色素は、紫外線によって植物体内に生まれた活性酸素から守るために生成される「抗酸化物質」なのです。日当たりが良いほど、紅葉や果物が綺麗に色づくのはこのためです。
 私たち人間は、それらを多く含む果物や緑黄色野菜を食することで健康を保ちます。たとえば、体内に取り入れられたカロテンは2つに分かれて「ビタミンA」となります。
 紅葉や黄葉は草や低木にも見られ、「草紅葉」とよばれます。気をつけて観察すると、シャコバサボテンなどの紅葉も見られました。次代へつなぐ種子を包んだ果物にも、散りゆくばかりの葉にも、草や多肉植物にも、“あるがままの命”を守るためのメカニズムは等しく働いています。
モミジ観光
モミジ観光
 秋の彩りを美しい“風物詩”として愛でつつ、植物細胞内の生命現象にも思いをはせる…。ちょっとだけ「物知り博士」になった後には、ひと味違った景色に見えるでしょうか。
 私は、お気に入りの「1day京都チケット」とサイクリングターミナルの自転車で、今年も一人ぽっちの「紅葉賀」を催しに参ります。彩りの里を目指して、大好きな鴨川土手をのんびりとペダルをこぐ姿を見かけましたら、ぜひお声をお掛けください…。
(2008.11.1)
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