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京町家友の会


飛魚とウリ
佐々木 定寿(京町家友の会)

新たな年に
前部下水引一番
緋羅紗地波濤飛魚文肉入刺繍
 七月は祇園祭。平成26年に150年ぶりに大船鉾は巡行復帰しましたが、お祭と言うより神事を続けてきた大船鉾が建つ四条町。この町内にある料理屋(矢尾定)の担当は、祭期間中、神功皇后のお供えに使う飛魚とウリの用意です。飛魚は、大船鉾の下水引一番の正面(今年復元新調されます)に一体、左舷に十一体、右舷に十一体と合わせて二十三体が躍動します。現品は〜緋羅紗地波濤飛魚文肉入刺繍〜どう見ても「飛龍」です。四条町ではこの幕を納める箱の墨書より「飛魚」と呼ぶようにしています。神功皇后の三韓征伐時、帥船のまわりを飛魚が取り巻き道案内をしたと聞いています。それがための取材と思われます。大船鉾が所蔵する幕類衣裳の中で最も人目を引きます。本品は緋羅紗の大幅裂地に本金糸にて下面から六分にわたって波濤をあしらい、上面を飛魚が闊達に跳ねています。

 お供えの飛魚は、細い筒状の逆三角形の断面を持つ体をしており、全長30〜40cm。胸ビレは上端と下端が長くのびたV字状で、特に下端が長く水面滑走時に水中へ推進力を効率よく伝えられます。滑空時には胸ビレを広げ、グライダーのように飛び、海面すれすれを猛スピードで滑空します。これは主に、マグロ、シイラなどの捕食者から逃げるためで、滑空距離は、100m位、風上に向って飛びます。旬は初夏から夏、小骨の多い魚ですが、脂肪が少なく淡白な味で、開いた飛魚を天日で乾燥処理したものを供えます。毎日のお供えは取り替え、前日のお供えを焼いて頂きます。

 飛魚をアゴと呼ぶ日本海地方では、鮮魚としてよりも練り物や出汁の材料として利用されることが多いようです。アゴを原材料とした「アゴチクワ」が有名です。九州地方では、飛魚のダシ入りつゆで麺が多く食べられています。


大船鉾の主祭神
神宮皇后様の御神面のお飾り
 ウリは、おそらく中国から朝鮮半島を経て日本に入ったものと考えられます。平安時代には元旦に行われる歯固めの式という宮中の行事で、ウリの串ざしを供えたようです。ウリというと、すぐに奈良漬という漬物を思い出しますが、食生活の中で副食として、非常に大きな役割を果たしてきたのが漬物です。漬物は、我々の生活の知恵から生まれました。野菜が少なくなる冬の保存食として考案されたのでしょう。奈良の酒造りの酒粕を利用してウリを漬込んだ菊屋治左衛門という人は、なかなか味のわかるかつ商才に富んだ人であったので元来歯切れのよいウリを、べっこう色になるまで漬込んだ奈良漬けは、多くの日本人が好んで古くから食べられています。

 京都での奈良漬けは、綾小路通烏丸西入南側にある田中長さんです。ビルとビルの間に堂々とした間口が広い、歴史ある店構えでしたが、その佇まいを今は見ることができないのは大変残念です。

 でも田中長さんのご自宅が大船鉾が建つ四条町にあり、大船鉾を乗り降りしたり、お祭のお飾りをしたりする会所(町家)として使わせていただけるのは本当にありがたいことです。今年の祇園祭が終わりましたら、ワールドモニュメント財団様、京町家再生研究会様、京町家作事組様、京都市都市計画局様、京都市景観・まちづくりセンター様などの多くのお力で会所の改修工事が始まります。
(2016.7.1)
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