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京町家友の会




(一)

 サラの木が、サワサワ風にそよいでた。林ん中わ、ひんやりしてて、ほんまに、えー気持ちやった。
 インドの、むかーしむかしの、お話やね。
 ガヤ村てゆーとこに、善財てゆー、ぼんが居たんや。林ん中のことやったら知らん物(もん)てあらへんのやけど、今日(きょー)わ、なんやけったいや。見たことあらへんほど、仰山(ぎょーさん)、仰山の、お坊(ぼん)さんが、居(や)はったのや。ほんで、村の人やらもやって来(き)やはって、サラの林わ、えらい賑やかや。お釈迦はんのお弟子(でっ)さんの、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)はんが、お話しはんのやて。善財も、寄してもーて聞―てみた。
 優しー声やった。善財にわ、えらいむつかしかったけど、しまいの方(ほー)に、こんなん言わはった。
ほやなー言(ゆ)―たら、池にひっそり咲いてる蓮の花、見てみなはれ。その、しとーつしとつの花の上にも、仏さんが居(い)やはりますのや。そーかて、それ見(め)ーんのわ偉らいお人だけどす。いろんな勉強し、正しー行ないして、世の中の人の為に働けるよーに成ったら、初めて見(め)―てきますのやで。」
 善財わ、ほんまにびっくりした。林ん中のことやったら、何(な)んも知らんことあらへんつもりやった。
「そやけど、蓮の花の上に、ほんなお人(しと)が居(い)やはったかいなー。」
 善財わ、人垣を潜り抜け、林の小径を走って、善財だけしか知らへん、小さい池にでた。
その水面にわ、まっ白の蓮の花が、たんとたんと居(お)したんや。善財わ、その、しとーつしとつの花を、よーお、見てみた。やっぱり、花の上に仏さんなんか見(み)つからへん。
 善財わ、膝ぼん抱(かか)えて、ちょちょこばってしもーた。
 池わ、怖いほど静かやった。
「偉らい人に成ったら見(め)ーてくんにゃろかなー。」
 善財が、そない思いながら林ん中え戻ってくと、お話が終わったんか、仰山(ぎょーさん)のお坊(ぼん)さんが、こっちえやって来やはった。そん中に、文殊はんも居(や)はった。
「文殊はん。どないしたら、私も偉らい人に成れますにゃろか。教(お)せとくりゃす。」
て、善財はんわ、尋ねた。ほな、文殊はんわ、
「よー、お聞きやしたな。その偉らい人(しと)に成りたいと思うのんが、ほん、大切なことなんや。あんたはんわ、偉らい人(しと)のとこ行って、どないしたらえーか、丁寧(てーねー)にお聞きやして、教(お)せてもろたことを、一所懸命(いっしょけんめ)、気張って身(みー)につけ、世の中の人の為に働けるよーに成らんなん。南の方(ほー)に、カラクてゆー国がある。そこのクドクウンてゆー、お坊(ぼん)さんにお聞きなはれ。」
て、教(お)せてくれはった。
 善財わ、それを聞―て喜び、南の国えの旅に出てくことにしたんや。

つづく

※アンダーラインのある言葉は標準語の吹き出しをご覧下さい。