（十二）

　　文殊(もんじゅ)さまのお名前(おなまえ)を聞(き)いて、ぜんざいは、ふっと、ふるさとのことを思(おも)いだしました。
「南(みなみ)へ南(みなみ)へと旅(たび)をして、とうとう、こんな南(みなみ)の国(くに)まで来(き)てしまった。ああ、早(はや)く帰(かえ)りたい。」
　と、そのとき、とたんに、目(め)の前(まえ)に、文殊(もんじゅ)さまが表(あらわ)れ、あたりは、見(み)おぼえのある、ふるさとのけしきになりました。
　そこは、ぜんざいが育(そだ)ったガヤ村(むら)です。でも、いままで見(み)たこともないほど空(そら)は透(す)きとおって青(あお)く、木(き)は緑(みどり)にかがやき、家(いえ)も人(ひと)びとも、きれいに見(み)えました。まるで、まだ弥勒(みろく)さまの宮殿(きゅうでん)の中(なか)のようです。
「ようこそおかえり、ぜんざい。あなたはりっぱに長(なが)い旅(たび)を終(お)え、すべてのことを学(まな)びました。あっというまに帰(かえ)ってこれたのも、あなたの村(むら)が前(まえ)より美(うつく)しく見(み)えるのも、あなたに力(ちから)がついたからです。もうどこへ行こうと、なにをしようと、思(おも)うままにできますよ。」
　文殊(もんじゅ)さまが、こうおっしゃると、ぜんざいは、ただもう、うれしくて、なみだを流(なが)していいました。
「ありがとうございます、文殊(もんじゅ)さま。おかげさまで、さまざまなことを学(まな)び、さまざまな力(ちから)をつけることができました。このうえは、さらに努力(どりょく)して、りっぱな人(ひと)になって、世(よ)の中(なか)のためになりたいと思(おも)います。」
「よくぞ、いいました。ぜんざい。その、りっぱな人(ひと)になって、世(よ)の中(なか)のためになりたいという、強(つよ)い心(こころ)が、あなたをここまで成長(せいちょう)させたのです。さあ、普賢(ふげん)ぼさつ(・・・)さまが、あなたをずっと、お待(ま)ちだったのですよ。」

つづく