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はじめに京町家再生研究会京町家作事組京町家友の会京町家情報センター
◆京町家コラム
第2回 京町家再生と地震対策
望月秀祐

 平成12年10月6日午後1時半、鳥取県西部地震(マグニチュード7.3)が起こりました。そのとき私は中京のある町家で話し込んでいました。古い町家のためか特に大きな揺れを感じ、やはり大地震の活動期に入ったという学説は本当だなあと思いました。
 1944年(昭和19年)12月7日、その日、第三高等学校のグラウンドで私たちは軍事教練のため整列していました。突然大地が大きく揺れ、直立できないほどの大きな地震だと感じました。
 それは東南海地震(マグニチュード7.9)と呼ばれた巨大地震でした。続いて、1946年(昭和21年)12月21日、南海地震(マグニチュード8.0)と呼ばれた巨大地震が起こりました。
 この二つの巨大地震は南海トラフでの海洋プレートの沈み込みによる地殻の摩擦により発生したものです。南海トラフのトラフとは水深6千メートル以下の浅い海溝を指し、それより深いものは海溝と呼ばれています。
 これらの巨大地震の直前、1943年(昭和18年)9月10日に鳥取地震(マグニチュード7.2)が発生しています。今から57年前のことです。
 尾池和夫京大教授著『活動期に入った地震列島』で、私たちの住む西南日本は、過去の地震記録により、約100年の周期で、そのうち約70年が活動期、約30年が静穏期になっている。1995年(平成7年)の兵庫県南部地震以後、活動期に入り約70年間は大地震が絶えない。その間のマグニチュード7クラスの大地震は約9回と予測される。南海トラフでの巨大地震の前約50年間に内陸型の大地震が、巨大地震の後約20年間に内陸型の大地震が続く。次の南海巨大地震は2030〜40年ごろと予測されるとの学説が提言されています。
 京町家の再生を研究し実践しつづける私たちは、兵庫県南部地震が起こってからは、京町家の再生に当り耐震補強をより重視するようにしています。
 最初のうちは、現行建築基準法に適合するよう、基礎コンクリート打、土台・柱の基礎との緊結、壁・筋かいの増設(中京・河合家の表家など)で対応しました。
 しかし、耐震補強の費用や間取りの制約から部分補強しかできない京町家では、構造部材の一部固定化は全体としては偏心などにより却って構造が不安定になるので、以後、京町家の再生に当り、基礎・土台・柱の緊結を取り止め、地震時に構造体が滑動してもよい方法に切り替えました(伏見・斉藤家ほか)。
 昨年10月、京町家再生の依頼を受けた阪本家(中京区柳馬場通夷川上る)を調査した結果、耐震補強に新たな工法を採用することにしました。それは鴻池組と早稲田大学曽田研究室の共同研究により開発された粘弾性ダンパー(仕口ダンパーと略す)という制震ダンパーの初使用です。
 仕口ダンパーとは図のように2枚の三角形鋼板(一辺の長さ15センチ)の間に高分子材料の粘弾性体を挟み込んだもので、柱と梁の仕口部に取付け、地震時の仕口部の回転変形に応じ鋼板がずれ粘弾性体が変形し、地震エネルギーを吸収して耐震性能を向上させるものです。去る7月7日、日本建築学会「木構造と木造文化の再構築」特別研究委員会による「制震ダンパー付木造軸組」の公開振動実験が京大防災研究所で行なわれ、その後も実験が継続されています。
 阪本家は築後百年の高塀付きの大きな京町家です。建物の外回りの地盤条件が悪かったためか、外回りの柱はすべて著しく不同沈下していました。勿論道路に平行した間口方向の壁はほとんどありません。そこで阪本家の耐震補強は局部型ではなく分散型にすべきとし、前掲の仕口ダンパーという名の制震ダンパー使用が最適だと判断しました。この仕口ダンパーの取付は容易で工費も安いのが特長です。取付けた仕口ダンパーは間口方向で1、2階合わせて29体です。
 現在、阪本家の再生工事は、京町家作事組(担当アラキ工務店)により順調に進められ、来る11月中旬には完工する予定です。