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京町家再生研究会
大谷孝彦

路地の町家再生 −空間の共有とほっこりしたお付合い 
 京都の町家と言ってもその様子は様々です。中二階建、総二階建、表家造り、仕舞家造り……そして表通りに面した町家と路地奥の町家。京都の街を歩いていると時折、建物の間に細い通路が奥に向かって入り込んでいるのを見かけます。その通路に足を踏み入れてみるとそこにはいくつかの木造建物がひっそりと、寄り添うように並んでいるのがわかります。その通路にはお稲荷さんや、お地蔵さんが祭られていることが多く、鉢植えの植木や草花が並べられ、なんとなくほっとするような雰囲気が感じられます。

 ほとんどが住まいの建物ですが中には骨董品や、小物のお店などに模様替えしているところもあります。建物もアルミサッシや、新建材に改装したものもありますが、整然と出格子や玄関戸を残している所もあります。これが路地であり、路地奥の町家です。そこには路地を共有する人達のほっこりとしたお付き合いの暮らしの場、コミュニティがありました。夏の風通しのために入り口の引き戸を開けておくとお向かいやお隣のテレビの音によって、あっ、そろそろとばかりに自分の家のテレビのスイッチを入れるということもあるそうです。子供達も廻りのことを気遣うことを自然におぼえて成長することができたということです。今でもその形のままが良いと言うわけではありませんが、余りにも個人主義が行きすぎた社会の弊害は近頃様々な事件ニュースとして耳にするところです。

 しかし、そのような路地奥も住人の高齢化と建物の老朽化が進みつつあり、なんらかの手を打つ必要に迫られています。その通路の幅は一間あるいはそれ以下の寸法であるため、その奥にある建物の建て替えが困難であり、防災上の問題がとりあげられています。木造の町家を鉄筋コンクリートの中高層共同住宅にする「協同建替」と併行して、平成11年5月11日施行の建築基準法改正をベースとして袋路及びそれに面する複数の敷地をひとつとみなして、それぞれの住宅が時期をずらしてでも個別に建て替えることができる「協調建替」が可能となりました。但しそこにかかわる住民間で一定の協調的ルールを設定することが必要です。協同建替、協調建替ともに複数の家を対象とするため利害上の問題、あるいは近隣の問題などにより実現のためには大変な時間と労力が必要となります。京都においてもいくつかの事例がお目見えしていますが、担当された方々は大変なご苦労をなさったことと思います。

 路地の暖かい集住の形式を新しい集合住宅にも生かそうということで町家型という言い方の集合住宅があります。今後この町家型集合住宅が都心居住あるいは都心景観の再生にかかわる意味も大きいと思われます。昔からの路地奥木造町家、コミュニティの持っていた本質をしっかりと受け継いで、またそこに現代的な新しい感性をもうまく取り込んでいくのが本物の町家型共同住宅であり、そのような形を通じての町家の継承ということも可能であろうと思います。

 しかし、ある所では路地そのままの形で建物の補修や整備を行い、随分すっきりした形に再生をおこなっている所もあります。そこには勿論コーディネーター、デザイナーとして有能な建築家がかかわっています。住人もアート関係の人が入ってしゃれた表札やポスター、焼き物などがセンスよく配置されていたりします。こじんまりしたそのスケールと暖かい木の表情豊かな路地の空間は真に人間味溢れるものです。我々の研究会で先日木造建物の初期防火性能を散水式の水幕によって確保しようという実験装置の実物を町家へ取り付けました。将来このような装置の防火性能が正式に認定されることができるならば、路地奥の防火性能向上にも貢献できるのではないかと思います。色々な形で京都の歴史の染み着いた路地空間が引き継がれていくことはすばらしいことだと思います。