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京町家再生研究会
大谷孝彦

町家の軒下-2 −現代の外観デザインに対して 
 前回は昭和初めの町家外観の変化について書きました。最近多く見られるのは透明ガラスの大きなはめ殺し窓を取り入れた改修事例です。これは特定の客を対象とする問屋から一般客を対象とする店舗へと商いの形の変化、そして、現代的デザインの志向性によるものでしょう。本来は祭りの折に表の格子が取り外され、内の様子を表の通りに開放する、ハレの表情の常時的設営であり、ここに町家の表と内の係わりの新たな本質的変化があります。出格子の格子を取り外しガラス窓とする事例は以前からも見られますが木の枠組みは当初のままであり、それ故、町家らしさの見え方に問題はありません。これは木造の木の軸組みの構成的な強さが節度的秩序として利いているからであろうと思われます。デザイン手法の節度的秩序とは建築の歴史的要素と新しいデザイン要素の間合いの構成バランスをみることでしょう。現代風の大きなガラスのはめ込みについてもそのような節度的秩序があれば町家としての品格、趣が残せるものと思われます。

 まず、屋根、庇ですが、二階屋根はその下の木造建物のボリュームを抑え、建物のヒューマンスケールと落ちついた印象を強調します。軒庇はその水平性の強さ、瓦素材のもつ質感の強さ、軒の出の深さによってできる空間の陰影の強さなどによってその下の空間を支配下へと抑えます。そのために、外観の二階と一階の間に一線のけじめをつける役割を果たし、それによって、一階軒下における改修は多少現代風、洋風になったとしてもファサード全体としてのデザイン的バランスは保たれていると言えるのです。町家の屋根、庇が町家の外観に対してそのような重い空間的意味をもつものであることを確認すると、中高層のビルの壁面にちょこっと取り付けられた庇にはそういう意味合いを感じ取ることが難しいのです。

 建物一階全幅のガラスの開口のデザインは大変モダンに見えるのですが、しかし二階がもとのままである場合ファサード全体としてボリューム感のアンバランスが感じられることが無いでしょうか。特に、一階妻壁からかな折れの小壁が無い場合、表に見えるのは両妻壁面の軸組みのみで一階部分のボリューム的印象はいかにも心もとなく感じられることがあります。実質的に耐震性の弱点となる恐れもあります。框ガラスパネルの連続建て込み、スチールなどによる新たな枠組みを創るなど、ガラス面の扱いに工夫を凝らしてデザイン的に成功している事例もあります。基本的には耐震的効果の期待される程度の小壁を設けることは視覚的安定感を得るためにも必要なデザイン的要素かと思われます。

 一階ファサードに和風の壁面をもち込み、それによってガラス開口面の大きさを適度に絞り込み、内部への視線透過度を少し押えて、節度のある内外の透過性の関係を作っている事例があります。このような意識的コントロールは一つの節度あるけじめとなり、格子のもつ半透過的とでもいうような「おくゆかしさ」にも通じる面があります。
 ガラスの素材の質感に関しても、すりガラス、熱線吸収ガラスなど透過性を少し抑えたガラスの使用は格子のもっている意味の継承、そしてその意味の新しい表現ととらえることもできます。

 軒庇の持つ空間的意味、ガラス開口と壁とのバランスの確認、あるいはガラス素材の選択などは節度のある秩序を得るためのデザインの手法と言えるでしょう。町家の使い方の変化、デザイン的感性の移り変わりに応じて町家も変わらざるをえないのですが、歴史性と現代性をその間合いにおいて見つめること、節度ある秩序の感性をもつことによって、町家の大事な要素を引き継ぎながらも新たな創造的展開を行うという持続的な町家の再生デザインが可能であると思われます。