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京町家再生研究会
網野 正観(京町家再生研究会)

設計塾の現場から

 昨年10月に再生研の設計塾が開講された。現在、全7回の講義のうち6回を終了したところである。筆者は公的機関で団地や再開発の住宅設計などに長い間関わったことがあるが、今は木造の町家に興味を持って居住実験を含めて勉強中である。設計塾の世話役という立場で昨年の初夏からこの企画に関わってきた。

 本稿では、設計塾の企画から現在に至るまで、現場を通じて感じ取ったこと及び設計塾の進捗状況について紹介することとしたい。まず設計塾開設の動機について。
それは、昨今の改修設計には、あるべき姿勢や、配慮が欠けているものが多いのではないかという危機感に因っている。では何が欠けているのか。二つの視点から問題とされる改修設計を取り上げてみる。

 一点目。京町家の保全・継承は、自然との関わり、まちとの関わり、住む人との関わりなど大切に受け継がれてきた生活文化を継承することに大きな意義がある。にも拘らず、生活文化と密接に関わる京町家の形や意味をわきまえていないと考えられる改修設計が見受けられる。たとえば、山鉾巡行の通りに沿道緑化と称して中木を植栽するという設計、茶室の配置や床の間の真行草の使い分けが不確かな設計など。
 二点目。京町家の改修の基本は、現状調査に基づき「復原」に向けての考察を行い、現代的な暮らしや使い方の要求に対応しながら、その町家の昔ながらの姿を効果的によみがえらせることにある。にも拘らず、「復原」への姿勢が見られず、さらには、将来的にも復原を困難にするほど致命的な改変が行われる場合がある。たとえば、根拠の不確かなファサードの改修設計や主要な通し柱の切断など。

 このような“分かっていない”“残念な”改修設計は、せっかく再生のための投資が行われ、その京町家を健全な姿によみがえらせる機会をみすみす失ってしまうことになる。再生研の目指す京町家の保全・継承の姿とは違う方向であり、むしろ妨げになってしまう。
こうした危機感は、量的なデータに基づくものではないが、重要な問題提起となっている。
 ではどうするか。設計者に基礎的な知識がないことが大きな要因の一つではないか。設計者に、あるべき姿を伝えるべきである。再生研には伝えたいことがあり、伝える力がある。だから設計に携わる人たちと直接に接して伝えることのできる場として設計塾を始めよう。さらに講義の内容を取りまとめて京町家改修のテキストとすることも検討しよう。以上が、設計塾開設の主な動機であったと捉えている。
そして、設計塾の対象としたのは、京町家の伝統的な形に仕事を通じても生活の中でも実地に触れる機会が少なく、習得する場が見当たらない現状にあると考えられる若手の設計者や学生である。彼らに、京町家の本来のあり方、伝統的な形やその意味を伝える場を設けることを設計塾の開設趣旨とした。8月に募集を行ったところ、定員を超える20名の塾生が集まった。以下では、各回の講義について簡単に紹介しておきたい。

 初回は、木下龍一氏と野間光輪子氏の対談(コーディネーターは小島理事長)。豊富な設計経験をお持ちのお二人から、釜座町町家やセカンドハウスなど実体験に基づく説得力のあるお話が次々と飛び出し、刺激的で楽しい対談となった。若い設計者へのアドバイスとして、「空間を経験しなさい。」「町家だけではなく社寺や茶室など良いものをたくさん見なさい。」「とにかく見る眼を養いなさい。」ということが強調された。
 第2回から第4回では、「京町家の基本(1) 形の意味」「京町家の基本(2) 素材と工法」「改修設計の基本」の講義を実施し、第2回の講義後には小島家内部の見学の機会を持った。
 第5回の現地見学では、「良いものを見る」の趣旨に則って、大徳寺を訪れ、千利休の菩提寺聚光院と一休禅師の真珠庵を見学した。友の会会員でもある京都工芸繊維大学の矢ケ崎善太郎先生を講師に迎え、同行していただき、庭玉軒など茶室についてのご説明をじっくりと伺うことができた。
 第6回と第7回は実測調査と活用提案の設計演習である。所有者さんのご好意で、表通り沿いと裏路地沿いに多様な形態の長屋が8軒建ち並ぶ現場で、群としての町家の活用を検討できる格好の題材を選ぶことができた。第6回の雨の中の実測調査を終えて、最終となる第7回目は、提案発表と講評を行う予定である。半年間にわたった講座の集大成であり、双方にとって収穫のある場となることを期待している。

<網野 正観(京町家再生研究会)>

2018.3.1