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京町家再生研究会

既存京町家の保全・継承にむけた地域まちづくり活動への期待

 2017年11月に制定された「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」(京町家条例)に基づく、京町家解体の届出、保全及び継承に係る協議、解体工事請負契約の通知などが2018年5月より、いよいよ施行される。同条例制定に伴って設置された「京都市京町家保全・継承審議会」も2月以降2回開催され、京町家保全・継承推進計画の策定,京町家保全重点取組地区及び重要京町家の指定,その他条例の施行に関する重要事項についての審議が開始されている。しかしながら、京都のまちなかでは、誠に嘆かわしく、情けないことに、いわゆる「駆け込み解体」やそれを唆す事業者の活動も散見される。京町家条例を実効性あるものにするために、再度、条例制定の根本に立ち返って、緊急にしなければならないことを考えてみたい。

 先ず、最初に確認しておきたいことは、京町家条例の背景である。京都市の定義による京町家、すなわち、建築基準法が施行された1950年以前に建設された伝統構法による木造住宅が年間約2%の割合で滅失し、現在、約4万軒となっており、このまま放置すると、京町家及びそれらを含む地域で継承されてきた洗練された都市型の「生活文化」の継承や発展が望めなくなることである。

 ここで重要なことは、京町家は一敷地の中に建つ一建築物ではなく、一定の連担のルールに従って両側町を構成する要素であるとともに、両側町としての都市生活の舞台を継承してきた「お町内」や「元学区」というコミュニティの中に建つ建築物であるということである。すなわち、この条例で保全・継承しようとしているのは、京町家という建物だけではなく、京町家が存在する地域の「生活文化」なのである。その「生活文化」には、歴史の蓄積があるだけでなく、現代が求める「レジリエンス」、つまり、予測困難な環境変化にもしなやかに対応しうる力が蓄積されている。そして、地域の「生活文化」の保全・継承を実現するためには、地域の居住機能の保全・継承、「住み続けられるまちづくり」の推進は不可欠であると言えるのである。

 次に、京町家条例の仕組みを検討してみよう。第一に、この条例は、行政と京町家所有者の関係を規定したものである(規制の強化)。京町家所有者は、もし、その京町家の解体を考えようとするときには、解体予定の一年以上前にその旨を京都市に届け出る義務を負う、ということがこの条例の根幹である。この仕組みによって、京町家の保全・継承のための様々な支援が実効性をもつようになり、結果として京町家の解体が回避され、保全・継承が促進される可能性が高まると考えるのである。

 第二に、京町家条例は、行政と既存京町家流通市場との関係を規定してる(市場の活用)。京町家解体回避の仕組みを有効に機能させるためには、既存京町家の流通促進が不可欠である。そのため、この条例では、京町家の保全・継承の促進のために、行政は、事業者団体等との連携の下で、既存京町家の流通市場の環境整備を推進することを唱っている。

 以上が、京町家条例の概要である。しかし、「規制の強化」と「市場の活用」だけで、地域の「生活文化」の保全・継承に向けた京町家の保全・継承が十分促進できるといえるであろうか。条例策定までの議論を振り返ると、さらに第三の仕組みの検討が必要ではないかと思われる。

 第三の仕組みとは、地域コミュニティの役割の重視である。もちろん、今回の条例の中にも「自治組織及び市民活動団体等の役割」が明記され、地域コミュニティの位置づけが行われている。しかし、京町家所有者の解体回避や流通の促進に地域コミュニティが一定の役割を演じるという想定は弱く、それを期待した行政の地域コミュニティ活動支援の強化という発想はない。さらには、地域の「生活文化」の保全・継承に向けた活動の活性化が、既存京町家所有者の解体回避や流通の促進につながるという視点も欠けている。ここでは、先ず、行政による地域コミュニティの活動支援の強化を提言しておきたい。次に、地域コミュニティの活動が、京町家保全重点取組地区の指定や地域内での重要京町家の指定に結びつくことも積極的に促進すべきである。一方、地域コミュニティに対しては、地域の「生活文化」の保全・継承に向けた取組や、京町家保全重点取組地区の指定や地域内での重要京町家の指定に結びつく取組などの活性化を強く期待したい。

<燗c光雄(京町家再生研究会)>

2018.5.1