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京町家再生研究会

京町家新条例の適切な運用を考える

 去る6月16日(土)に表記のシンポジウムを開催しました。
 新条例は昨年11月16日に制定、今年5月1日から施行されているのですが、町家を壊すときには届け出をという条例の主旨は町家の所有者に届いているのかどうか疑問です。ここ1ヶ月間の市内の様子を見ていても、あちこちで町家が壊されている現場に遭遇します。条例の効果がネガティブに働いているとしたら、それが昨今の解体急増の理由になっているのでしょうか。町家を保全するための画期的な条例が運用されることになったのに、肝心の町家がどんどん壊されていくのでは、何のために条例ができたのかわかりません。条例を運用するためには町家や地区、地域の指定が必要となるのですが、その指定がいまだに見えてこないことに気をもんでいるのは私たちだけではないはずです。まちなかは日々大きく変貌しています。再生研本部(中京区)のまわりにもあっという間に4軒の大きなホテルが建ちました。その内の2つは界隈でも有名な町家の跡に建てられました。今もまた新しいホテルが計画され、呉服の室町のイメージは消えつつあります。
 町家に住み続けること、町家を維持管理することには大きな負担があることも事実ですが、それ以上に町家が持つ本来の機能である「暮らすことの価値」が存在するはずです。昨今は「町家を活用する」ことに重きが置かれ、「暮らす」ことが置き去りになりがちですが、やはり町家の保全には「暮らし」「生活」が基本として考えられるべきだと思います。どのように「活用」が進んでも京都に根ざした「暮らし」が町家にはいまも息づいていると感じられることが貴重なのだと考えています。もちろん維持管理を健全に行うためには「活用」は必要不可欠なことだとは思いますが、そのために町家が本来持っているべき生活のための機能を忘れては、本末転倒になってしまいます。
 新条例を機に町家が壊される理由を調べたデーターがありますが、そのうちの多くに「建替え」があります。居住者の移動、すなわち売却される町家に対する取組はこれから多くの意見が集められ、議論が進むと思われますが、「建替え」については、今後その対応をしっかりとしていかないといけない問題です。町家は寒くて、暗くて、住みにくい。特に高齢者にとっては過酷な環境を強いるのかもしれませんが、今は多くの相談窓口があり、生活の環境改善はかなり進んでいますので、積極的に専門家に相談をして頂きたいと思います。技術の開発による生活の改善は日々進んでいます。これまで難しかったことが、今は問題なく解決することも増えています。家を建て替えるだけが選択肢ではなく、改修、修理、再生といった考え方も当たり前になりつつあります。たくさんの思い出が詰まった家を惜しげも無く潰すのではない選択肢が出来ています。
 私たちはこれまでも「住まいとしての町家」を大切にして、その「再生」には大きなエネルギーを注いできました。これからもその立場は変えずに常に居住者の立場に立った存在であり続けます。町家に住む人たちが負担になること、損害を被ることにならない条例であってほしいとの思いで、積極的に条例推進のサポートをしていきたいと考えています。これからの町家を考えていくためには、これまで以上にお住まいの方々のお考えが重要になってきます。町家の存在はこれからの京都のあるべき方向性を担っているといっても過言ではありません。京都のあるべき姿、将来像を描くためにも町家は必要不可欠であることを居住者、所有者の方々にはしっかりとご理解頂きたいと思います。京町家がなくなっていくことは、自分の寿命を削っていくことだと自覚してほしいと発言されたデービッド・アトキンソン氏の言葉は、これからの京都の進むべき道への大きな提言であり、私たちはその発言の重さをもっともっと真剣に考えなくてはならないとの思いを強くしたシンポジウムであったことを報告します。

<小島富佐江(京町家再生研究会)>

2018.7.1