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京町家再生研究会

まちなかの変貌

 また町家が壊された。町家をこれ以上壊さないようにとの願いで施行された条例はいまだ効力を発していない。なぜこのようなことが起こっているのか。まちなかを歩くたびに町家が急激に姿を消していると実感する。特に田の字地区と言われている京都の中心部はひどい。再生研本部のある界隈にはかつて多くの町家があったが、戦後の好景気、バブル期を経て、激減している。それに加えて今回の状況である。
 町家を壊すときには事前に届けを出すことになった条例が今年5月から施行されているが、届け出もなくあっという間に解体されている。もちろん今は努力義務ではあるが、それにしてもこのような状況になるとは。駆け込みと言われる解体が多いのかどうか、解体から売却、もしくは売却の後で解体、いまも建物に評価があるのではなく土地が中心の売買が多いのには驚く。あれほどバブルの終焉に苦労したはずなのに、今また同じことが繰り返されている。
 観光、インバウンドという言葉をあちこちで聞く。京都も年々観光客が増えており、そのための宿泊施設が急増している。町家もその流れに巻き込まれており、多くの家がゲストハウスと呼ばれる簡易宿所に転用された。かつては飲食店や物販の店として改修される町家が多く見られたが、今はゲストハウス。もちろん壊されるよりはいいのだが、改修の仕方に疑問を持つ家が多くある。また、外側は町家風でも中に入るとマンションの一室のようなしつらえになっており、これが町家型宿泊施設なのだろうかと考えてしまうような改修も多いのが現状である。本来の町家の暮らし方が理解されないまま、知らないままに「町家風」の建物が増え続けている。
 気がかりな町家がある。文化財の指定を受けながらホテルとしての建築計画が進められている。建物の一部は昨今話題になって入る3条条例適用除外が使われるらしいが、奥には10階建てのホテルが建つ。この方法で建築基準法の規制が緩和されるのならやはり建物全体を残すことを考えるべきだし、そのための適用除外ではないのだろうか。1軒の家なのに、文化財の指定がかけられている部分とそうでない部分、不思議なことであるが、今回は文化財指定の建物以外は壊される。これがほんとうに文化財を大切にしているということなのだろうか。町家は庭や付随する建物も含めて1軒の町家である。主屋はもちろんのこと、蔵や離れ、納屋など、それぞれにこれまでの暮らしの中での役割を持っていたはずである。それをばらばらにするのには疑問を感じる。なぜ、全体を保全するということが出来ないのだろうか。文化財とはどのようなものなのだろうか。
 ホテルが足りないと言われ続けているが、いま私の住む界隈には1町内に1軒以上のホテルが建てられているし、まちなかはまだまだホテルの建築計画が多く進められている。本当にこれだけのホテルが必要なのだろうか?町家が解体されてホテルが建ち並ぶまちなか。京都らしいまちなみはとうに失せてしまっていると思うのだが、これからどのようなまちなみが形成されるのだろう。その指針となるものはどこにあるのか教えてほしい。
 もうひとつ文化財の町家があやういと聞いている。うわさであるが、解体してどこかに移築するというようなことも聞こえてくるが、単なるうわさであってほしい。町家はまちなかにあってこそ町家である。その土地に根付いた文化に育まれた建物であるので、他の土地に移されてもその家の機能や個性は発揮出来ないだろう。なぜ、そのようなことが次々と起こってくるのか、いまの現状はバブル期よりひどいように感じている。いつまでこのような状況が続くのか。このまま手をこまねいていては、京都が京都でなくなる日も近いと思っている。

 10月27日からは京町家設計塾の2期目がスタートする。町家の再生にかかわる仲間がこの機会を通して、一人でも多くなることに期待をしている。


<小島富佐江(京町家再生研究会)>

2018.11.1