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京町家再生研究会

町家の未来

 昨年は再生研で年間を通しての取組、「京町家設計塾」「京町家親子体験教室」を開催しました。設計者と積極的に関わり、町家のことをもっと広く、もっと深く考えてもらえるようにと始めた「塾」ですが、まだまだ端緒についたばかりです。昨年10月から第2期が始まりましたが、塾生、講師とも更なるブラッシュアップをしていきたいと思っています。小学生を対象とした「親子体験教室」も初めての試みでしたが、子どもたちの反応によろこんだり、おどろいたり。もっともっといろんなことを町家で経験してもらいたいと思っています。今年も続けていきたい楽しい取組となっています。
 また昨年は大学生とも学び合える機会を得て、多くの刺激を受けました。学生さんたちとは町家を使った取組を考えるということをテーマに議論を重ねることができました。私にとってはとても貴重な時間でした。小学生と大学生、これから社会へとでていく人たちに私たちの気持ちをつたえていくということが、とても大切であるということを強く感じさせられた機会にもなりました。幸いにも今年もこれらの機会は継続することになり、とても喜んでおります。

 さて、今年は京都とボストンの友好姉妹都市締結の60周年を迎えます。かつて、京都市は姉妹都市締結の20周年を記念してボストンに京都の町家を贈呈しています。中京にあった町家をボストンに「移築」したのです。その町家があるのは、ボストンチルドレンズミュージアムで1913年に空家となった倉庫を改修して設立されたこどもたちのための博物館です。 さまざまなことを学べるこの施設の中に京町家があることは京都ではあまりしられていません。この建物の2階と3階を使って2階建ての町家が京都の大工さんの手によって建てられました。ボストンの多くの子どもたち、学生さんたちが見学に訪れ、自分たちの暮らしと日本の暮らしの違いを体験して学ぶことをしています。京都の町家をたずねてくださったボストンの大学生が町家を見たことがあると聞いたときには「?」と思ったことがありましたが、この「町家」を見てなるほどと納得しました。
 残念ながら京都にはこのような施設がありません。今の子どもたちはちょっと前まで当たり前だった暮らし方を知らないことが多いのです。畳の部屋のないお宅、床の間のない現代の家は普通になっています。公開されている町家はあっても、ボストンの町家のようにこどもたちが家の中でいろんなことを体験出来る施設はありません。子どもたちがおじいちゃん、おばあちゃんの家をたずねるような気持ちで過ごせるボストンのチルドレンズミュージアムのような施設が京都にあればいいのにと、ずっと思っています。博物館、美術館という名前がついてしまうとちょっと敷居が高くなるかもしれませんが、「わたしたちの京都のおうち」とでも称して、こどもたちが気軽にたずねることのできる町家が1軒ほしいと思っています。

朝から集まった子どもたちとは、おそうじをしてお茶をいただくことをしてみたり、お座敷に座って春夏秋冬の差し込む光の様子をながめたり、庭にある木々のことを考えてみたり、折々の部屋のしつらえを替えてみたり・・・。いろんな体験をその場でしてもらいたいと思っています。普段とはちょっとちがう体験になるのかもしれませんが、ついこの間まで普通にあった「暮らし」です。グローバル化という海外との接点、距離がどんどんと近くなってきている今の時代だからこそ、日本人としての暮らし方、もののみかた、考え方をこの町家体験を通して感じてほしいと思います。

 京都のまちなかの町家で子どもたちの声がきこえます。今日はどんなことをしているのかな?なにかおもしろそうなことができたかな。おそうじ、ちゃんとできたかな?お花をいけるのはだれかな? お茶はどんなふうにだすのかな。お客さんごっこ?さてさて、こんな町家がいつできるのかしら。初夢ならぬ正夢になってほしいと思う年のはじめです。


<小島富佐江(京町家再生研究会)>

2019.1.1