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京町家再生研究会
大谷孝彦
 
都市再生と京町家
 この所、町家に係わる動きが急である。小泉首相が自ら本部長を務める政府の「都市再生本部」が京都の中心部に残る町家の再生活用の検討調査に5000万円の予算を決定したということである。これについてはことの実現のために大変努力をされた京都市都市づくり推進課の岸田担当課長に別稿で詳細のお話をお願いしている。ぜひ、お読みになって頂きたい。
 「都市再生」とは特定の地域を定めて規制の緩和を行ない、都市としての開発を推進させ、経済活性化へと繋ぐのがねらいの政府の施策である。ここで言う開発は、一般的には大規模な建物などの建設促進を目指す方向が主であり、低層木造建築である多くの町家を活かしながらの都市再生は異色であろう。町家を残すことと大規模高層の建物を造ることは合い入れることではなく、従って、他地域の都市再生とは全く状況が異なる。町家という歴史文化のある建物とくらしを根拠とした持続的な力を活用しての都市再生である。町家の中からふつふつと湧き出て、醸成されてくるような力による社会・環境整備、経済活性効果への期待である。今回の「都市再生」の決定によって、歴史的建築町家にそのような意義を再確認されたことがまず大変喜ばしいことである。都心部で盛んに行なわれる高層マンション建設を見ていると、京都の資産である町家と景観風情の破壊、高層建て詰まりによる居住環境の悪化、異常なほどの建設低コストがもたらす建設業者の経営的圧迫などの問題があるように思われ、このままでは本質的に今後どのような社会的、経済的効果に繋がるのか疑問に感じられるところがある。
 また、伝統木造構法・様式に基づく建築である京町家は現行法規の上では非合法のものであり、それを改めるための技術的、制度的対処が徐々に進められつつあるが、歴史、文化、くらしの力というソフト面をも配慮して、柔軟性のある建物性能評価を積極的に行ない、京町家が早く合法的な建物となることを目指したい。これは緩和による推進という「都市再生」の目的と主旨を同じくするものでもあろう。
 京都における都市再生の調査の内容はハードの技術や形を対象とするだけでなく、歴史、文化、くらしというソフトの面を具体的に評価する眼をもって頂きたい。その点に留意して、歴史都市京都の特性を十分に活かせる「都市再生調査」が実行されることを期待している。
 さて、我々京町家ネットの四つの会では、今、「京町家お訪ね相談」を進めつつある。町家にくらす人達の色々な困りごと、相談を受けて、共に考え、問題に対処していこう。また、対話を通じて町家、町家のくらしを共有する。そのようなしくみを作ろう。その結果、町家のくらしを安心、安全、快適なものとして、住み手に今後とも住み続ける意思の確認と高揚を計ろうとするものである。それによって、町家のくらしと建物の存続が確実となって行く。そして、歴史文化に裏付けられた、安定したくらしの中から醸成される生活の力が、今、日本が直面している社会的、経済的危機状況の本質的な回復、再生を可能にする力になるのではないかとも思われる。町家にくらす人達の相談ごととして予想されるのは、建物の構造、防災などの安全、安心に係わること、貸したい・借りたいなどの町家の有効活用に係わること、税金や環境などくらしに直接係わること、などである。これに対して京町家ネットの四つの会が中心となって、日頃の研究、実践の成果を生かして応じようという取り組みである。様々な相談に十分にお答えしきれない部分もあるかもしれないが、今後とも、住み手の皆様と共に考え、より良い方向を見つけて行きたいと言う気持ちで取り組むつもりである。気軽に遠慮無く相談を投げかけて頂ければ幸いである。