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京町家再生研究会

大谷孝彦

京町家ネットワークを目指して
 京都市の「まちなみ保全・再生に係わる審議会」のなかで議論された各委員の本音の話しが『職住共存の都心再生』(学芸出版社刊)という本になって出版されている。是非ご一読願いたい。京町家が集積する都心職住共存地区の歴史的な特性を、京都の地域資源、アイデンティティーとして保存再生を進める必要がある。ディベロッパーが開発する大規模な高層集合住宅が従来の集住秩序(景観秩序、空間秩序、生活秩序)の破壊を招いている。集住秩序の再編のためのいくつかの基本的な理念が提案され、また、その提案を受けて、行政としての施策の検討方針が述べられている。新しい年を迎えるにあたり、このような内容に照らしつつ我々京町家ネットワークの今後の活動方針を確認してみたい。

 ここに古びた新聞の切り抜きがある。「都市民が安定した個人の居住性と定着性をもっていた時代、空間はいつも人間に対応したサイズをもってデザインされた。人間を個として認識したデザインであった。現代都市のデザインは人間を巨大な集団としてとらえ、それをいかに能率的に処理し、管理するかをもってデザインされる。(中略)人間のための都市と、物と量のための都市と、この両極端に位置する都市の像は、どんな哲学をもって結合することができるのか。マクロな「物と量」の都市のなかに、できる限りミクロな二次的な都市を生み出すことであろう。」(昭和49年、朝日新聞、吉田光邦京大助教授(当時))
 現在の京都のマンションはまさにこの「集団」「物と量」的な目的と手法でもって建てられる。今後のまちづくりは「物と量」から歴史、文化、環境などを軸とした「人間的なもの」への比重の大きな移行を目指す中で、両者の共存のあり方が問われる。京都のまちなかにおいてはそのような人間的なものとして町家の存在がある。「都市性」とは本来「歴史性を根拠とした持続性の上に創造される新しさ」であり、そのような意味での都市性と歴史性の共存が必要である。唐突に現れた巨大マンションのあるまちなかの状況を仮に「現代性」と呼び、町家のある町並みを「歴史性」とするならば、両者の共存のあり方として如何なる形がありうるか。まずは、建物のボリュームを小さくし、調和へと、現状維持からの改善を目指すことは必要である。行政は審議会の答申を受け、トップダウンの対応として緊急を要する基準改正にただちに取り組んで頂きたい。

 京都においては伝統的建造物群保存地区など一部を除いては、西欧の歴史都市に見られるような歴史地区と新しい地区の明確な地域分けができていない。現実的に京都のまちなかには歴史性と現代性が無秩序に混在し、オーバーラップしている。この状況の中でも一つには「マクロな都市」の中に「ミクロな次元のまち」を地区計画などの手法によって共存させる事例が生まれつつある。
 そして一方、オーバーラップして見え難い状態にある歴史性を力強く際立たせるために、個としての町家を歴史性の遺伝子によって繋がれた群、地縁に対していわば血縁としての連携を持った町家群としてとらえる見方がある。現状の町家は必ずしも連続した町並みとなっていない。視覚的な連続はなくとも、個々の町家を歴史的遺伝子を媒介としたイメージや情報の共有化などによって連携したもの(ネットワーク)としてとらえることができる。決してビルの谷間に孤立した一軒の町家を見捨ててはならない。そのようにネットワーク化された町家群の「地」は力強い連携のパワーを持つこととなり、現代性に対して優位性をもっての共存を可能とする。そして、今やそのようなネットワークに視点を置いた広がりへの活動を目指す時期である。

 我々市民活動セクターの取組みは言わばボトムアップの取組みであり、町家保存再生を直接の対象とした個々の実践的取組みからのアプローチである。個としての町家、住む人の個々のくらしの、差し迫った要求に応じた再生実践である。そして、その集積が町家から町内、都市へ、個から集合へと繋がりを広げて行く。町家不動産流通情報(情報センター)、町家補修改修の実践(作事組)、町家再生のアイデンティティーの共有(友の会)、町家課題の研究・活動ネットワークの構築(再生研究会)。今後の課題として町家再生資金への取組みがあるが、既に大事な活動のポイントは押さえている。今後は、個々の地道な実践からネットワークへの強化を計る必要がある。トップダウン的な行政による諸制度改正などの施策との有機的連携を目指す必要もある。友の会、情報センターの情報から作事組の活動への情報提供があり、また、今進めつつある、お訪ね相談、防災調査についても今までに係わりのあった町家の快い協力が得られる状況にある。町家ネットワークがしっかりとできつつあることが実感できる。

2003.3.1