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京町家再生研究会
小島 富佐江(再生研究会事務局長)

町家調査再開
 平成6年にトヨタ財団の助成を受けて始めた町家調査から10年という年月が過ぎた。あのころは「町家」という言葉がそれほど一般的ではなく、おたずねしても、「うちは町家とは違います」というお返事が返ってくることが多かった。10年を経た今、まちなかには「町家」が氾濫している。
  こじんまりと始めた調査は思いのほか大変で、学生さんたちが初年度は約4000軒、二年目にもほぼ同数を勘定してくれた。あちこち壊される家をたくさん見ていたせいもあって、その数が多いのか少ないのか、とっさには分からなかったがあとで他都市と比べて桁違いに多いことがわかり、これは何とかしないと大変なことになると思った。多くの町家でお話を聞かせていただき、大切にされているお気持ちが強く感じられたが、町家を取り巻く環境は日に日に悪くなり、法律もなにも町家が存続することになっていないという現実がとても歯がゆく、なんとかしたいという思いは募った。
  あれから10年、町家に対する一般の認識は変わったが、かつておたずねした町家の方々はどうされているのか、いまの「町家ブーム」はお住まいの方々のお考えを変えただろうか、何かよくなったことがあるのだろうか、ずっと気になっている。先日もお訪ねした町家の方と道で行き会い、その後の様子をすこし立ち話でしたのだが。
  「町家ブーム」といわれるこの頃、まちなかには店舗としての町家が急激に増えた。書店の店頭には「京町家」「町家で○○」といった題名の本がやたらと目に付く。あこもここも町家??? かつては町中を歩くと必ずといっていいほどつぶされる家を見つけたが、最近は町中を歩くと新しくお店になった町家に出会う。研究会が発足後、町家改修の相談をいくつか受け、東洞院におしゃれなケーキ屋さんができ、祇園祭の山を出すお町内には京都の伝統産業による製品を商うお店も開店した。それらの家はビルに囲まれてはいるものの、どっしりと落ち着いた存在感を持っている。町家をその地に存続させるための方策としていろんなことを検討した結果の店舗だった。かかわった人が智恵をよせて時間をかけ、その結果として店舗に再生したと思っている。しかし、最近の店舗はあっという間に変わる。私たちが知らないだけだろうか。瞬く間に内装が変わり、看板がついているという気がする。修理はどうなっているのか、設備は?防火は?という基本的なことが気になりだし、やはり店舗になっている町家の調査も必要ではと今年早々から店舗の調査を始めた。
  雑誌で紹介されている飲食店、約160件に対してアンケートを送付し、その折、お訪ねしても良いかどうかもあわせてお返事をいただくことにした。現在約40通のお返事を頂き、ヒアリングにお伺いしたのは10軒。中には老舗もあり、きっと先方もなぜ今頃こんな調査が……と不思議に思っていらっしゃるだろうと気にしながらもお話をうかがう機会を得た。他方、新しく町家でお店をもたれた若い方々からの好意的なコメントつきのお返事を頂いたり、お話をうかがうこともできた。あまりにけたたましい町家の店舗改修をみるにつけ、すべてが今のブームに流されているのではないかと懐疑的な目を向けてしまうのだが、お訪ねした店舗はその気持ちを少しやわらげてくれた。しかし、残念ながらそれは割合からいえば今ある町家店舗のほんの少しである。
  アンケートで気になったのは、町中に建つ木造の法的な問題に対する認識の薄さである。改修に対してもどれだけ注意をされているのだろうか。もっと安全性に対しての意識を喚起させないといけないだろう。ただ、確たる改修の指針のようなものがないのも事実で、これについては早急な取り組みが望まれる。調査を通して、これからの町家について考えることがまだまだたくさんあることを実感している。早急に対応しなければいけないことも見えてきた。ブームといわれる今こそ商業用の町家改修を検証しておかなければ、5年後、10年後の町中を考えることは出来ないだろう。
  お住まいの方々へ再度お話をうかがうことも、準備が整い次第再開したいと思っている。過去10年間に中心部の町家は13%が滅失したという結果が出ている。次の10年、町家は正念場を迎えている。
(2005.7.1)