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京町家再生研究会
宗田好史(再生研究会理事)

京町家の住民は今! 
 京都市は景観法(2004年)にあわせ、昨年末に「京都市景観計画」を策定、この3月には全国初となる「景観重要建造物」3件を指定した。吉田邸、小島邸、山中油店さん、どれも再生研の馴染み深い町家である。指定により、相続税評価額の優遇措置、建築基準法上の防火措置の一部が規制緩和、外観の修理・修景に対する助成制度などのメリットがある。都市景観課はすでに修理費用を補助している108件の歴史的意匠建築物等から順次指定を進めていく方針で、歴史的な町並みの破壊に歯止めをかけたいという(京都新聞06.3.30)。
 同じく京都市は景観審議会の答申を受けて、ついに都心の高度規制を強化する。幹線道路沿いの45mを31mに内側の31mを15mにそれぞれ規制強化し、町家を基調とする町並みづくりを図るという(京都新聞06.4.20)。5年前の町並み審議会では達成できなかった、京町家の継承に向けた本格的な待望の規制が始まる。高度規制強化も国内初である。
 この他にも「京町家まちづくりファンド」の助成による町家再生が始まり、耐震、耐火補強のための補助を含む「京町家再生賃貸住宅制度」、「町家証券化」など、町家を守るために次々と新たな制度が整ってきた。これら町家再生を支援する制度と今回の高度規制、アメとムチ両面での行政の取組みが出揃ったことになる。流れが変わって10年、これまでと比べ市役所が本腰を入れた早い対応であったと思う。
 しかし、市民団体、民間の対応はもっと早かった。京町家ネットでも作事組、情報センターが、町家再生の実務的側面を担っている。10年前の住民アンケートで三大問題とされたマンション増加、税金、修理修繕については解決には程遠いものの、改善のための道を付けることができた。
 今回、景観重要建造物指定がこれら3軒から始まったことも、高度規制の強化なども再生研14年間の活動の成果でもある。しかし、これだけで町家の破壊に歯止めがかからないことも十分予測できる。今頃になって高度規制が強化されても、すでに都心には現行規制に添って建てられた高層ビル、マンションが570棟以上ある。10年前に調べた2万8千軒の町家はすでに2万5千軒程度にまで減少した。
 京町家の再生のために、現行の「建築基準法」が不適切であること、地元不動産業界が町家流通に熱心に取組み、町家情報があふれている現在でも、一般市民が町家のようなストックを活用しやすい住宅市場にはなっていないことなど、積み残しの課題は多く残っている。これを解決しても尚残る困難な障害がある。その最大の問題は、町家再生の動きが町家にお住まいの住民の皆さんにまだ届いていないこと、さらに、町家でご商売をされるお店の問題、安易な改修、杜撰な工事が増え、反面、もっと手を入れて欲しい看板建築も多いことである。
 この10年、自らの町家を残したいという一部の熱心な住民に応える方策は整いつつある。しかし、大勢の住民の個別の事情に即するような対応策がない。だから、失われていく町家を救う手立てがない。そればかりか、町家に対する無理解と行政への不信に凝り固まった古い意識が、町家再生の熱意を妨げてもいる。制度面が整いつつある今だからこそ、この他の町家住民の皆さんを結集し、再生への力を強める必要がある。制度が整っても、肝心の町家を内側から再生する住民の皆さんの熱意がもっと広がらなければならない。
 だから、2万5千軒にお住まいのお宅に少しでも早く、京都市民と京都市はあなたの町家を残すようお願いしたいというメッセージを届けたい。これは、市民活動である再生研が市民に向けて発信しつづけたい使命でもある。京都の景観保護のためだけではなく、個々人にとっても、京都に住む、町家に住むことの意味を一緒に考え、よりよい暮らしのために町家を守ろうというメッセージである。
 これまで再生研は、京町家にこめられた先人の知恵を継承、季節ごとの自然と関わる町家の暮らしを大切に、町家での隣近所の御付合い、町家の暮らし易さを支え、安全を確保する工夫とともに、伝統の建築技術を理解し、引き継ぎ活かす、新しい感性にも対応した持続性のある町家暮らしの展開等々のメッセージを発信し、さらに町家を市民共有の資産として、今後の京都のまちづくりの中に位置づける活動を重ねてきた。しかし、根底のところに伝わりにくい価値観のズレが残っている。家と対話して暮らす生き方の意味を大切にする価値に気付かなければ、このメッセージは伝わらない。
 町家は雄弁である。住む人に常に語りかけている。再生研のメッセージではなく、町家の声を聞く耳を持たない限り、よりよい暮らしが、便利さでなく、町家の伝統にあるとは思えないだろう。町家の声、町家に住む人だけが聞くことのできるメッセージを発信する必要がある。
 6月例会では、再生研の原点に戻って、お馴染みの町家住民のお話を聞く。この14年で何か変わったのか。我々は何を目指すのか。町家再生のために本当にしなければならないことは何かを問いかける議論をしたいと考えている。

2006.5.1