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京町家再生研究会
末川 協(再生研究会幹事)

祇園祭山鉾構造調査に参加して
 昨年に引き続き、京町家再生研究会では祇園祭山鉾連合会、京都市、京都府の文化財保護課に協力し、祇園祭の山鉾調査を行った。今年はより規模を広げ、近年に改修を行った鉾などを除く8基の大型の山鉾の構造体の実測を行った。7月10日の四条通での蔵出しに始まり、13日の新町通での曳山の車輪取り付けまで、短期間の組立作業の合間を縫う調査には、京町家再生研究会の研究者、設計者に加え、建築士会会員からの応援、京町家作事組からの職方、京町家棟梁塾の塾生までが加わり、総勢30人を超す協力者が集まった。8つのご町内に日替わりメンバーで各チームが張り付き、各山鉾の仕口を含めた部材寸法から櫓や芯木の全体寸法までを記録し、ベテランの大工棟梁は使われる木材の材種をすべて確認して回った。組立作業への思わずの邪魔や失礼にお叱りを受けながら、時にそのお手伝いにも加わりながら、走り回る4日間であった。野帳のスケッチではパニックになりかけた若手大工も、櫓の組立の応援ではてったいさんに混じりながら足場の上でカケヤを叩き、面目躍如の様子であった。

 華やかな懸装に覆われるそれぞれの山鉾の構造の調査は、今後も引き継がれていく山鉾の修繕のためでもあり、その資料化をお手伝いする意味がある。そして同時に、個人の経験の枠をはるかに超えた時間の中で完成されてきた山鉾の伝統的な構造の理解の試みは、その全体から細部までの技や知恵に学ぶことで、町家再生への取組みともつながる。


山鉾調査の様子(写真:末川協)
 高い鉾では芯木の頂部で地上25mを越す。その芯木を斜め四方から支えるカムロ柱は、初めからストレスを持ち、弓なりにしなりながら芯木の揺れを押し返す。その芯木や囃し方の乗る舞台を持つ山鉾の重心は、巨大な石持や車輪の重量で下げられている。進行する長手桁方向では圧縮にだけ効く筋交いを、また巾の狭い妻方向では引張りにも効く筋交いを一つの櫓の二方向で使い分ける。短期間の組み立てと解体を前提として、櫓の各部材の仕口の長ホゾは多くの山鉾において共通であり、鼻センはその作業性から山鉾ごとに同じサイズを使う。さらにそれを覆う芸術的な縄の巻き方もフレームの変形を拘束する方向に使い分けがあり、一気の鉾建てや大人数を載せての巡航に耐えるように強く柔らかい門型の立体的な組み合わせが出来ている。縦材の多くは桧、横材で曲げが大きい部分には時に松、更に集中荷重を受ける材には樫などの堅木を適所に使い分ける。山鉾の構造体のステイタスとも言える一対の石持には、松、ケヤキ、桜などが使われている。傷んだ芯木の継手には町家の柱の補修と同じ金輪が使われていた。

 山鉾の構造の大小の技や知恵に教わり、感心する点は多くとも、その全体の完成度を知ることは、部分的な合理性や数値化の足し合わせでは難しいのだろうと感じられる。近年の修繕で屋根に筋交いを入れて固めてみたところ、巡航中に舞台の四本柱が裂けた鉾のお話を伺った。生半可な思い付きを加える余地など無い、一つの鉾の磨ぎ澄まされた構造があることを思い知らされる。伝統の技と知恵、積み重ねられた工夫などに学ぶことなく、安易に現代的合理性を押しつけることの危うさは町家と共通する。

 幾つかの山鉾の構造を横並びに見学させていただいた印象として巨大な鉾ほど舞台の支持の仕方などがよりシンプルな構造となり、全体として鉾が目指して来た構造の完成の一方向が垣間見える。一方カムロ柱を使わずに舞台床面のフレームで芯木を支持する独特の山や、まったく独自の形状の鉾も見られ、山鉾同士の構造の違いもまた多様である。この点は町家の調査と同様に個別の興味が尽きない奥行きがある。建て方一つを取ってみても、すべての部材に大きくはっきり墨を打ち、町内自前で組み立てる山から、今日では重機を用いるご町内まで、てったいさんが入るところ、大工さんが入るところ、縄の結びにも長けた庭師さんたちが入るところまで、実に山鉾ごとに様々である。祇園祭は、底知れぬ歴史を持つご町内ごとの祭りの総体であると、4日間の山鉾調査でも知ることができた。

2006.9.1