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京町家再生研究会
大谷孝彦(再生研究会理事長)

「全国町並みゼミ」と「全国町家再生交流会」
 「全国町並みゼミ」に参加させて頂きました。今回は「全国町並み保存連盟」が結成されてから第30回目の「全国町並みゼミ」となるそうで、さすがに長年の活動の歴史の重みが感じられる大会でした。そこには全国のつながりの力があり、それは活躍した人たちの歴史でもあります。既に亡くなられた人、90歳過ぎてなおご健在の方、そのすごい戦いがあります。小樽運河を現在のように守り育てた戦いがあり、今も鞆の浦では道路建設による町並み破壊を阻止する戦いが続けられています。その迫力にはすごさが感じられます。

 京町家ネットは「町並み保存と技術の継承(梶山)」「景観法と町並み保全型まちづくり(大谷)」「町家の再生活用と町並み文化(松井)」の3つの分科会に参加しました。私は先述の「景観法」分科会のパネラーとして、京都における景観法施行後の行政の施策展開について、特に町家との係わりが強い職住共存地区を中心に報告を行いました。

 大幅にダウンさせた高さ規制は町家存続のための環境整備の意味で有効です。デザイン基準の改正は町家外観を基準として町並み景観の整備を図ろうとするものであり、本家である町家再生保存を頑張らねばならない、という励ましにはなります。また、景観整備機構である(財)京都市景観・まちづくりセンターに昨年度創設された、「京町家まちづくりファンド」の助成を受けた町家改修が行われ、市においては景観法に基づき京町家の景観重要建造物の指定が進んでいます。このように京都は歴史的資産である町家、町家再生を一つの軸として、まちづくり、都市再生が進展しつつあります。今回はかなり思い切った制度の改正が行われ、その成果が大いに期待されるところですが、しかし、結局は市民、住民の意識、意志が大切であり、市民、住民のアイデンティティーとの重ね合わせがあって初めて制度施策が有効に働きます。町家再生の深みのある土壌づくりです。土壌ができればそこから町家再生はどんどん芽生え、育ちます。そして地域独自の歴史、文化を掘り起こし、個性あるまちづくりが可能となります。

 京町家ネットでは今年の12月に「全国町家再生交流会」を行います。一昨年の開催に続いての第2回目となります。町家再生の様々な課題を全国で共有し、空き町家問題などそれぞれの地域がもつ課題についての議論をそれぞれの地域活動の肥やしにしたいと思います。交流会の内容については「全国町並みゼミ」とはまた少し違う狙いを持っています。町家再生は勿論町並みに係わる重要な要素ですが、町並みには様々な歴史的建造物、そして自然が係わります。我々京町家ネットはあえて町家再生に焦点を絞り、その視点から様々な課題に取り組んでみようというスタンスを持っています。歴史都市という資産を背負った現代都市に存続する町家に係わる多様で複合的な課題に、広く、深く迫ることを目標にしています。それは、今回分科会において取り上げる予定の法・制度、町家の住まい手と担い手をとりまく環境、技術、利活用と流通、町家への意識改革などなどの課題です。

 また、もうひとつの特徴は市民主体を強く活動の軸としているところです。我々京町家ネットにおいても、行政との連携のありかた、助成などの制度活用の受け止め方には賛否の差があり、いつも論争の種ともなっています。「制度に甘んじていては住民の主体性を失いかねないから基本的に連携は避けるべき」、「制度の趣旨を活かして実のある運用を行い、制度を育てて行くためにも、連携を積極的進めるべき」というような立場の相違です。しかし、一方の考え方を入れて、他方を捨てねばならないということはではなく、活動の中で相反することの共存があり得ます。それは多様で複合的な課題に対応するための特技であるとも思われます。そしてそこには、持続的な係わりを微妙なバランス感覚によって可能としているところがあり、高度の曖昧さに基づく、いわゆる京都らしい感性が働いているのであろうかとも思われます。全国町家再生交流会が全国で活動を展開されている皆様のお役に立つことができれば幸いです。第3回は京都とまた一味違う歴史、文化の地で開催されることを期待しています。

2007.11.1