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京町家再生研究会
小島 冨佐江(再生研事務局長)

ニューヨークと町家
  新年あけましておめでとうございます。
 今年も町家の保全再生の動きが益々広がるよう、皆様のご協力をお願いいたします。
 昨年も京町家に係わる様々な取組がありましたが、11月に開催されたニューヨークでのシンポジウムは京町家再生の新たな一歩となるような期待を持つものでした。きっかけは2008年の1月、立命館大学のリムボン教授が再生研例会でニューヨークでの取組をご紹介され、協力を要請されました。その前年、ニューヨークのジャパンソサエティによるイノベーターズプロジェクトのシンポジウムが京都市景観・まちづくりセンターで開催され、そのときにこられていたニューヨークの方々のご協力、ご尽力がこのプロジェクトを動かす大きな力となっていました。
 ニューヨークと町家、不思議な取り合わせのように見えますが、マンハッタンの町なかは築100年を越えようとする建物がたくさんあります。古くて使いにくいビルを様々な形で再生させ、使い続けるということがごく普通に行われています。特に歴史的な建物として選ばれたものはランドマークとして指定され、壊すことはできないのです。今回、ニューヨークで建物や文化に係わるNPOを始めとする多くの方々にお会いしました。歴史や建物の保全は当たり前で、それを皆が理解し、活用させていくための方策を様々な角度から考えることが必要であると、町家についても自分たちの問題として受け止めてくださり、ご提案をたくさんいただきました。専門家のミーティングとシンポジウムは2日間にわたり、朝から夜まで熱心な議論が交わされました。
 今回のニューヨーク側の中心人物、ルース・エイブラム氏が創立されたテナメントミュージアムも訪れ、その先駆的な取組を目の当たりにしたことも、私たちの刺激になりました。ニューヨークは古くから多くの移民が暮らしていたところでもあります。リトルイタリー、チャイナタウンというような名称をお聞きになったことがあると思いますが、マンハッタンのダウンタウンに位置します。その界隈にテナメントミュージアムはあります。移民の生活史を紹介し、実際に暮らしていた建物を博物館として紹介し、その界隈をめぐるというツアーが賑わっていました。
 日本とアメリカの法制度や税制の違いは大きく、彼らが当たり前のように話題にする固定資産税の減免や寄付行為に係わる税の控除については、私たちの国ではもう少し時間を待たなくてはならないのですが、彼らの行動の仕方、熱意には学ぶところがたくさんあります。正しいことをしているという自負、それを伝えることに対しての力はまだまだ私たちには不足していることのように思えました。
 すでにご承知のように、アメリカからの金融危機が全世界にじわじわと広がっています。日本でも経済の先行きを憂う報道が毎日聞こえてきます。そのさなかにニューヨークに行くことにどのような意味があるのか、疑問はありましたが、ニューヨークでお会いした財団関係者の方々の熱心な応対はそれを払拭してくれました。同じ思いを持つ「同志」の輪がまた広がったようです。
 ニューヨークへの発信は、同時に世界への発信にもなっていくような気がしています。今回の取組はまだまだどのような形になっていくのかはわかりませんが、とにかく何かが動こうとしています。町家の保全再生に向けられる目は日々大きくなっていきます。このきっかけを大切にして、より大きなものへと育てて生きたいと意を強くしたニューヨークの出会いでした。
2009.1.1