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京町家再生研究会
松井 薫、山田 公子(楽町楽家実行委員)

楽町楽家5年間の総括と今後について
 2005年に始めた≪町家で感じる 町家を楽しむ≫催し「楽町楽家」は、その後毎年、5月から6月にかけての1ヶ月間開催してきました。当初は第1回全国町家再生交流会のプレイベントとして企画、その年限りの予定でしたが、終ってみると思いのほか好評で、是非来年もとの声を多くいただき、それでは「とりあえず5年間やってみましょう」と続けてきたものです。今年その5年が済んで一区切りの時期に来たため、一旦総括をして、今後を考えてみたいと思います。

 「楽町楽家」は当初から、聞く(音楽)、匂いをかぐ(聞香など)、味わう(マリ茶のティーセレモニーなど)、見る(作品展・展示会)、触れる(見学会など)を意識したさまざまな催しを通じて、町家、特に住宅としての町家の良さをわかってもらうことを目的としてきました。町家でイベントをして集客を狙うのではなく、町家の中に入ってもらう手段としてさまざまな催しを企画したということです。参加した人たちは、とりあえず普通の町家の中に一定の時間滞在することになり、表から見ただけではわからない、光の様子、風の動き、聞こえてくる小鳥のさえずり、土壁や木で構成された内部の湿度や温度、匂いを含んだ空気感など、その場では言葉にならなくても、ある何らかの感覚的な印象を受けることとなります。会場として家を提供した側は、はじめは会場になるなんて思いもよらず不安もあるのですが、いざ催しをしてみると人々が集まり家の中での滞在を喜んでくれて、自分の家にこのような潜在力があったのかと驚かれます。そのうち自主的に町家を見てもらおうと催しをされ、新たな人との出会いや発見へと繋がっていくことになります。楽町楽家の主催者側も、初めはその家に合った催しを考え段取りをしていましたが、年を経るごとに自分たちで企画してみようという家も増え、その自主性を尊重し、できるだけそれぞれの家が主体的に創造力をもってやろうとされることをバックアップするようになってきました。

 「楽町楽家」が、出演者からも、会場を提供してくれた方々からも、参加者からも好評を得る催しとなったことは、5年間の具体的な数字からもわかります。

  2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
会場数 19 23 28 40 48
イベント数 38 40 54 77 91
協賛店数 31 31 50 62 63
参加
アーティスト数
52 37 48 66 93
 
 「楽町楽家」は、町家の良さを五感で知り町家が現代の生活においても良い建物だと思う人を増やすという点で大変効果的でした。最近町家に住み始めた人たちが「楽町楽家がきっかけで」と言われることがとても多いのです。そして、会場として町家を提供してくださった方々が本来の町家の良さを再認識されたこと、町家住人同士の関わりが気安く且つ密になったことも、その効果として挙げられます。また、町家住人と若い人たちとの新たな関係も生まれています。町家のギャラリーが連携して企画し実施した一般公募アート展「ひらめい展」。生活の光で町家の町並みを再認識してもらう「都ライト」も担当学生が住人の方との交流に手ごたえを感じています。SDC学生による改修コンペは学生に有意義なだけでなく、提案を受けた町家住人側も新鮮な刺激を受けておられます。住人側も若者も催しの達成感や感動で町家を守っていく意識を強く持ち、その想いをまた外へと発信することでしょう。このような効果が相乗し、町家保全・再生の機運を高めるのに役立っていくのではないでしょうか。

 「楽町楽家」を続けるには3つのポイントがあります。第一は「無理をしないこと」。関わる全ての人が楽しく動ける範囲で行うということです。第2は「主催者側が目的意識を共有すること」。決して商業主義に走らないことです。第三は「会場においてコーディネーターが適切なキーワードを用いて参加者に町家の良さを意識してもらうようにすること」。自主イベントにおいては町家が舞台装置の一つにすぎなくなってしまう危険性をはらんでいます。

 先の京町家再生研究会9月例会で京町家ネット会員の方々からは、「ライフスタイルと空間を結びつけた他に例を見ないユニークなイベント」「今後も何とかして是非続けて欲しい」「成熟社会の一つのモデルとして続けてほしい」「町家を消費するイベントになりやすい中で、楽町楽家は一定の役割がある」という感想とご意見をいただきました。今後を考える上で大きな励みとなり、また参考にしたいと思っております。ごくごく最近、町家に熱き想いを持つ若者たちが一つのグループをつくり、楽町楽家に対して積極的に関わっていく意思を示してくれました。とにかく来年も頑張ります!

2009.11.1