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京町家再生研究会
松井 薫、山田公子(楽町楽家実行委員)

新しい楽町楽家の始まり
 今年も楽町楽家の時期が近づいてきました。昨年で約束の5年間を終え、一区切りつけるつもりでいたのですが、我々の5年で終了の意向を超えて、かかわった人たちやこれから参加したい人たちのパワーに押されて、今年も実施することになりました。中にはもう年中行事として組み込まれているところもあり、何の疑いもなく、今年はどうしましょう、と相談を持ちかけられたりもして、とうていやめるわけにはいきませんでした。それだけ大きな効果があったということでしょう。
 当初は町家でイベントなんて、他愛もない子供の遊びみたいなこと、と思われていたむきもあったと思われますが、実際始めてみると、会場になった側にも、観客として参加した側にも新しい発見があり、新鮮な驚きがあって、町家の持つ奥深さを思い知らされることになりました。協賛していただいている町家を使った店舗も、会場になったところも、協賛だけのところもあったのですが、それぞれ人気店となり、地域に溶け込んだ店として受け入れられております。また、京都に直接関係のない人たちにとっても、京町家ネットのどこかに入会するとか例会に参加するというのは、勇気がいるし身構えてしまうけれども、楽町楽家は「しきい」が低く、参加しやすくて町家の魅力に触れることができると大変好評をいただいております。そしてなにより変わったのが、人々の町家に対しての認識です。情報センターに町家を探しに来る人たちも、以前は興味本位、きれいでかっこいいファッションとしての町家を求めてくる人が過半数だったのですが、ここ最近は町家の持つ、根源的な魅力に目覚めて町家に住みたいと訪れる人が多くなりました。特に顕著なのは、以前は全くといっていいほど見られなかった30代、40代の男性が、町家を住まいとして求める、という傾向が強くなってきていることです。彼らの話を聞くと、自立して会社に入り、膨大な情報を処理するだけで毎日が過ぎていくような生活に、何かおかしい、と感じており、周りにある自然を意識することもなく日々を過ごしていることにも、何か息が詰まるような思いを感じているとのことです。社会の渦の中に巻き込まれながら、少しは違った時間や生活にも接していないと、自分自身がどんどん壊れそうな気がする、と話してくれる人もいます。これはまさにわれわれが楽町楽家で目指してきた、町家を五感で感じる、五感で楽しむ、ということが形になって現れてきたものでしょう。パソコンやケイタイ、TVなどから一旦離れて、町家の中で繰り広げられる、さまざまなパフォーマンスを楽しむ。音楽を聴き、アート作品を見る。時には小さなスプーンを作る作業に熱中したり、お香のかおりの微妙な違いに神経を集中する。意識して五感を研ぎ澄まして、感覚を味わうことをしていると、鈍っていた自分の感じる心が徐々に蘇ってきます。何度も繰り返しているうちに、周りにあるいろいろな、音や光やにおいや味や感触に敏感になってきます。さまざまな数字やデータがなくても、自分にとって、本当に大切なものが、判断できるようになってきます。五感を磨くことの大切さは、データも見られない、ラベルの表示も確認できないとっさの判断の時に、五感を総合した、あるいは五感を超えた第六感が働くようになることにあります。瞬間的な判断に迫られた時、自分にとって、人間にとっていいか、悪いか、どういう動作をとればいいか、を第六感は正しく教えてくれます。この「自分自身で判断をする」という感覚を、町家で暮らしながら五感で感じ、楽しく豊かに生活している間に養うことができるのです。若い世代が直感的に、町家の中に大切なものがあると感じており、住まいとして町家を探す人が増えたのもそういうところだとしたら、楽町楽家の目指すところをちゃんと受け取ってくれている、ということになります。
 今回、楽町楽家を続けるにあたっては、若い世代にスタッフとして中心になって動いてもらうことにしました。もちろん、楽町楽家の主旨である、町家に住むことの良さを、五感に訴えることで楽しんでもらう、決して商業主義に走らない、という点はしっかり押さえていきます。さらに、楽町楽家の主旨をよく理解した町家住人が、自分の知り合いなどで行う自主企画を取り入れるようにもしました。これも高い料金で有名な人を呼んでくるのではなく、町家の良さを知ってもらうために、自分たちのできる、無理のない範囲で企画をしてもらっているものに限ります。これらを新たに加え、また京町家ネットとしての企画である、町家に関してのシンポジュウム(再生研)、オープンハウスや町家の話(作事組)、掘り出し物市(友の会)、住みたい町家を探しに行こう(情報センター)を中心に、町家ギャラリーでの「ひらめい展」、SDCの町家改修コンペ展など、年中行事になっているもの、さらに新しく参加したところも含めて、今回は会場になる町家だけでも60カ所以上になっています。ポスターやパンフレットも若いスタッフに製作を委ねました。
 フレッシュな感覚で5月15日(土)〜6月13日(日)の間、繰り広げられる楽町楽家を、多くの人が楽しんでいただき、少しでも「住むための」町家の良さを知ってもらい、大切に住み継がれてきた町家が、ひとつでも多く活用されるようになることを願っております。

2010.5.1