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京町家再生研究会
大谷孝彦(再生研理事長)

京町家ネットの活動目標──釜座町家を拠点にして
 釜座町の町家再生の工事が無事完成した。11月12日にはお披露目のお茶会が行われる。この町家再生はWMF(ワールド・モニュメント財団)の「京町家再生プロジェクト」支援、具体的にはWMFに参加しているフリーマン財団による総額25万ドルの支援の中で実施された。この間の経緯については既に別稿にも揚げているところであり、改修工事の詳細などについては今回のニュースレターにも取り上げている。
 釜座町は歴史的には鋳物師(いもじ)の集まる町内であった。この町家はかつて後継者がないという状況下で町内に住まわれていた斧屋家からご町内に寄贈されたものである。町内では毎年、斧屋家の墓前への参拝がなされている。町家建物は明治時代の建築であるが、町内の集まりなどのために、ある時期に二階部屋の拡張などが行われた形跡がある。今回の改修は作事組の設計、施工により実施された。1階奥の増築部の取り壊し、離れの復活を行い、壁塗に近くの蔵の解体時に採取した壁土を使用するなど、設計者と施工者の思い入れもある。改修の結果、京町家らしい奥行の感じられる空間が復活した。三条通りに面する表の間はたたき土間空間とし、表と内の中間領域として外の人との出会いの場として活用する。
 我々京町家ネットの大きな課題は今後の活用方法である。作事組事務所となると同時に京町家ネットとしての活動拠点として活用する予定である。町家を訪ねる一般訪問者を受け入れ、町家情報の発信・伝達、相談対応を行う。まず当初はネット各会が曜日を決めて店番を受け持つが、待ちの対応だけでなく、より積極的な姿勢として、月に一度は各専門の相談受付や町家セミナーなどを開催する。
 一方でここを拠点とした地域への取り組みである。京町家ネットの今までの実践活動は、作事組、情報センターを中心とした市全域における個々の町家への取り組みであった。点としての実績が集積され、面への拡がりとなって大きな成果を上げてきた。今後はそれに加え、地域への直接的、積極的な係わりを進める段階に来ているように思われる。まちづくりはまずは住み続ける居住者が主体である。一方では制度に係わる行政との連携も必要ではあるが、日本におけるまちづくりは行政側のイニシアティブによる事例も多い。我々市民活動としての基本的な目標は市民側の主体性であり、それは明治以降の日本の社会構造とは異なるしくみである。町内の力をNPOとの連携によって復活させることができないかとの思いが強い。地域・まちづくりは自立的な地域社会のネットワークの構築、美しい町並み景観、安全・安心に暮らすための防災・防犯、コミュニティーの人のつながり、特に都心部においては職住共存の社会構造など様々な事象の再構築であり、その取り組みはたやすい事ではない。町家によって構成されてきた町にはそれぞれの事象に関して、良き知恵と経験が蓄積されてきた。これまでの活動の中でそのことを実感し、体得してきた我々ネットの貴重な経験は今後の活動の強みとなるはずである。これを有効に活かしながら、住民とNPOが共に歩むという姿勢が大切であろう。
 この町家がある地元「釜座町」、および「明倫学区」の地域活動への積極的な参加、働きかけを行っていきたい。明倫学区まちづくり委員会との連携が必要である。明倫学区内の各町内は他の地域と同様、住民の高齢化がみられる。緩やかにでもよいが、地域の特徴あるまちづくり活動が更に活発化すれば地域の更なる発展が期待できる。
 例えば釜座町内において釜座の歴史を掘り起こし、それをきっかけとしてのお茶会などが開かれるようになれば、ご町内の記憶を蘇らせ、活性化を図ることができると思われる。
 明倫学区では地区計画の策定を目指している。具体的な動きとして「電線の地中化」などの話はあるがいまだ本格的にはならない。コミュニティーの成り立ちを支えるためには、マンションとのコミットも必要であるが、明倫学区ではマンションネットワークが既に設立されている。地域の高齢化はマンション住民による若返りに期待できる面もある。避難訓練がここ3年間継続実行されており、今後のネットワーク強化のきっかけになる可能性がある。
 京都市では新景観政策の深化に伴い、地域の主体性を重んじ、意見や計画を取り入れていくという方向性が出てきているところでもあり、町家を基調とした町並景観の計画も必要であろう。再生研究会では平成21年度に学区内の町家調査を行った。既に多くの町家はビルに立ち替わり、残る町家の数は少ないが、町内の歴史を刻む町家を根拠とした景観整備、町づくりがどのように展開できのるか。調査を継続し、その成果今後の活動展開に繋ぎたい。
 今後、拠点を活用した地域連携型のネットワーク活動を全国へ発信し、連携を強めていきたい。この12月5日には東京を会場としてシンポジウムを開催する予定である。まずWMFの支援を得た釜座町家の経緯を京都の事例として報告し、その後、西村幸夫先生をコーディネーターにお招きし、八女市と東京の台東歴史研究会からの参加を得て、町家再生・まちづくりについて語り合いたい。また、この町家の活用を契機として今後のWMFとの係わりを深め、引き続き京都の町家に対する支援につないで行きたい。

2010.11.1