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京町家再生研究会
大谷孝彦(京町家再生研究会理事長)

地域への取り組み

 東日本大震災による被害は甚大で、真に痛ましい限りです。このような状況の中で、歴史の中で培われてきた優れた知恵と工夫を活かす町家の再生をどのように考えていくべきかが改めて問われます。伝統木造として、またコミュニティーのあり方として、震災という大きな課題に目を向ける必要があります。昨年度は釜座町町家の再生が実現し、京町家ネットの活動拠点ができました。再生研究会では今までの活動に加え、この町家を拠点とした地域への積極的な取り組みを実施していきたいと思います。地域を捉えての町家再生はそこに親密なコミュニティーの再生を実現するはずであり、これは地域防災をより強固にする可能性があります。

 高度の情報化、グローバル化、都市の均質化の中で個性あるまちづくりの大切さが改めて問われています。地域の取り組みに関して、再生研究会の5月の例会において、京都大学名誉教授の高橋康夫先生から「京都山鉾町の文化的景観」のお話を伺いました。我々が具体的な取り組みを始めたいと考えているこの釜座町、明倫学区がある下京の新町通り地域の歴史的風地については「下京の歴史と文化を基盤として中世的な面影をとどめる都市空間および町家などの歴史文化遺産、町衆の伝統を受けつぎ、革新を求める人々の暮らしの文化や、祇園祭・地蔵盆などの祭礼・行事、茶湯や生け花などの芸術が一体となって形成している市街地の環境」とされています。古代の都に取り入れられた条坊制が崩壊し、応仁の乱によって壊滅した町が町衆によって力強く作り上げられてきた町の歴史を知ることができました。

 今、景観整備やまちづくりにおいて「場所性」というキーワードがよく登場します。地域の「場所性」とは地理、歴史、社会、文化等によってもたらされる地域の「意味」ともいえるものです。これは客観的にそこにあるというような「もの」でなはなく、人が地域に対しての意識を持つこと、身体と心で地域に働きかけることによって初めて顕在化してくるものです。歴史の時間の中で根付いた地域の様々な要素を地域の場所性、文脈として読み取ることができるはずです。京都の町家や町並みは昔の絵巻物や屏風絵に見られるような初原的な姿から今に存在する洗練され、趣ある形に変化してきました。かつての町はこのような地域の場所性を引き受け、引き継ぎ、調和を保ちながら進展してきました、ところが近代以降、西洋からの新たな技術や思想を鵜呑み的に取り入れた価値観は、特に戦後、本来の場所性や文脈とはかけ離れたものをつくり、暮らしぶりを改変し、町を急激に変化させてきました。場所性の継承が怪しいものとなりました。今、我々の取り組みは、まず地域の人たちにも忘れられている地域の場所性、文脈を読み解くことから始めなければならないのでしょう。さて、そのような地域の場所性をどのように取り戻し、どのように活かし、どのような町を作っていけるのでしょうか。どこにどのような具体的目標、基準があるのか。景観法や京都市の新景観政策による基準はひとつの指標ではありますが、必要条件であっても十分条件とはいえません。その目標は地域の人たちの地域に対する想いとその具体化としての地域のイメージの中に現れます。このイメージは他者による一律的な基準や指標をあてにしてはなりません。目標は地域の人たち、現代の町衆が自ら考え、語り合い、意識と価値観を共有した上で作り上げるものです。地域におけるまちづくりに役立つ制度があるとするとそれは協議会や建築協定などのしくみでしょう。都心における地域の取り組みのきっかけはマンション問題であることが多いと思われますが、突然に生じたマンション問題への刹那的な対応でなく、町家によって形成されてきた町並みやコミュニティー、そしてそれらが支えてきた祭などの諸行事にひそむ地域の場所性を確認し、それを根拠とした町家再生、まちづくりを目指さねばなりません。

 再生研究会で目標にしている今年度の釜座町、明倫学区における具体的な地域対応活動は以下の通りです。
・ご町内・学区の諸行事や諸計画への参加、促進への協力
・町家調査と特に独居高齢者などの住まわれる町家への積極的対応
・祇園祭に関連した山鉾、および山鉾町家・収蔵庫の調査・設計などの活動
・町家における子供教育の実践(子供町家塾、教育委員会や小学校への働きかけ)
・諸大学などによる町家活用の体系化(町家を統合したコンソシアム計画)
・町家の借り上げ、運用事業への取り組みの試み
 目標達成のために京町家ネットの連携をよろしくお願いします。

2011.7.1