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京町家再生研究会
小島冨佐江(京町家再生研究会 理事長)

美しい町家再生

 本年7月、京町家再生研究会は設立20周年を迎えました。研究会が発足以来、多くの方々のご協力、ご支援をいただいた賜物と厚く御礼を申し上げます。

 設立以来10年を節目として、会長、理事長の交代をしてまいりましたが、本年より新しい体制を作り、今後の活動をより活発に進めて生きたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 京町家再生研究会ができた頃(平成4年)はバブル期と呼ばれる異常な経済状況下でした。町中にある町家は地価の高騰による相続税に悩まされ、やむなく土地建物を手放されそれがマンションやビルに建て替えられる現場をあちこちで見ました。家を残したいけれどそれが本当に難しいと思える時代でした。相続問題が町家に大きくのしかかり、その手立てを学ぶこと、考えることが研究会の大きな課題となりました。

 一方、建築基準法も町家再生を進めていく上には大きな障害となっており、現場にかかわる技術者にとっては悩み多き再生が多くあったことと思います。戦前の木造をいかに安全に快適な住居として再生させるかということは、長年にわたる課題ですが、20年の活動を通して少しずつではありますが、この答えを導き出していると思っております。

 平成17年、景観法が施行され、景観を形成するために町家は大切な要素であるということがようやく認められました。社会の流れが町家を文化財として保存するのではなく、今を生き続ける家として住み継ぐという動きがでてきたものと私は理解しております。相続税に対しても減免措置がとられることになり、長年の研究会の取組みがようやく実を結びだしたことを実感しております。相続については単に税金を減免するだけでは解決できない問題が多くあり、町家を継承するためにはまだまだ取組みを強化させていかないといけませんが、大型の町家を維持していくための悩みの種であった相続税は少し楽になりました。また、近年、建築基準法についても京都市は独自に条例を作り木造の保全に対して積極的な取組みを始めました。現行の法律になかなか歩み寄れなかった町家再生ですが、多くの方々の尽力により大きな取っ掛かりができたと喜んでおります。法律を変えていくということは至難のわざと常々思っておりましたが、長年の努力はいつかむくわれることがあるということを思っているのは私だけではないでしょう。もちろんまだまだ解決されなければいけない課題は山積しておりますが、町家再生を合言葉に様々な活動に取り組んできた仲間にとっては大きな一歩であることには間違いありません。

 さて、これからです。

 町家再生は特別なことではなく、日常の建築行為になりつつありますが、次の50年、100年を住み続けることのできる町家がどれだけ再生されたのでしょうか。家として、店舗として柔軟性があるだけに様々な目的で町家再生がなされていますが、根本的な再生にはいたっていない建物が見受けられるのは残念なことです。壊してしまうと二度と同じものは建てられない町家を減らさないために、とにかく残して使ってくださいということを言い続けてきましたが、これからはその「質」を問うことが大きな課題となってきました。安全性については言うまでも無く、その機能性、デザインなど専門家、居住者に再び問いかけることが必要な時期が来たと思っております。美しい町家再生とはどのようなことなのか、これまでの20年をふりかえりつつ、更なる町家の未来についての問いかけを始めたいと思います。

 新しい京町家を建てるということも検討が始まっております。今まではすでに建っている町家をどのように直して暮し続けるか、使っていくかということが議論の中心でしたが、これからは新しい町家が課題に加わります。単なる過去の踏襲ではなく今を生きる私たちがこれから先をどのように生きていくのか、未来にどのような住まい方の智恵を送り届けることができるのか、「町家」にかかわったもののひとりとして、その責任の大きさを感じております。

 20年の節目に、京町家再生の意義をしっかりと見つめなおし、新しい一歩を踏み出そうとしております。引き続きご協力をお願い申し上げます。


2012.11.1