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京町家再生研究会
末川 協(再生研理事)

大船鉾の復元設計


大船鉾の姿図
 2014年の祇園祭巡行参加に向け、四条町での大船鉾の復興が進んでいる。2010年の秋、「大船鉾設計図作成ワーキンググループ」の立ち上げ時より、京町家再生研究会では、その設計のお手伝いが始まった。研究会では2005年より、祇園祭山鉾の軸組構造調査とその改修設計、監理を続けている。ご町内の枠を超え、お祭をお手伝いしてきた活動の一環と言える。今回は永いお祭の歴史でも、近年での規模の大きいプロジェクトであり、限られた時間の中、責任は日増しに大きく感じられる。

 本体軸組の設計が2011年の春まで。参考できる例は船鉾に限られた。2010年の末に、船鉾ご町内のご厚意で、全ての構造材の寸法、材料、接合部の調査をさせて頂いた。折しも船鉾の収蔵庫の改修を研究会でお手伝いした時期と重なり、資材の出し入れが順調に行なえた。今では杞憂に思えるが、船型の鉾を伝統軸組構法の技術で、実際に設計や製作に向かえると確信できたのはその時の調査のおかげである。全体として三次元の曲面を作る鉾でも、野高欄を除くと三方向に削り出す構造材は2種、4本に絞り込まれる。

 それぞれの部材の加工は難しくも、巡行の安全を目指す軸組全体の仕組みは明快であった。櫓から持出す前後4本のハネギで天秤のように船体を支える。大きな変形時には前後の組み合わせ柱がハネギに架かる荷重を助ける。ハネギをはすかいに組むことで、横向きの変形にも備える。多重に安全を図る仕組みは、細部の化粧材にも徹底されている。一つの仕口が傷んでも必ず別の接点で倒壊や落下を防ぐ。ここでも伝統軸組の原則を学ぶ機会を頂けた。一般の建築では見たことも無い仕口でも仕組みを教わるとその意味を学べる。

 大船鉾の軸組製作でも、船鉾の構造を踏襲することがワーキンググループで確認された。

 船体の寸法決定では、四条町内に大切に守られてきた懸装品を上記の構造に当てはめた。鉾の改修設計と同様、構造を化粧に合せる逆向きの作業を伴う。竹田工務店より原寸模型をつくる提案があり、手戻り無く検討が進んだ。全長は長くとも大船鉾の前懸後懸の幅は船鉾より狭い。この点を根拠に、構造に無理のない範囲で細長のプロポーションを目指した。いったん全体図と部材図までの作成が出来、2011年の秋には晴れて船体のお披露目をされた。

 船体の製作と並行で「大船鉾復元検討委員会」が立ち上がり、屋形の設計のお手伝いも始まった。重なる船鉾町のご厚意で2011年、2012年のお祭で船鉾屋形の実測調査の機会を頂けた。屋根の分割方法や接合部の水仕舞を教わった。屋形の軸組では三方差しの仕口、化粧と野材を兼ねる菖蒲桁の納まりを教わった。

 委員会では文献資料に加え、天明から幕末までの大船鉾の姿を記す11点の絵画資料を頂いた。それぞれの屋根や手摺の形状を一覧で比較し、屋形復元ための根拠とする資料を絞り協議に諮った。委員長からは「基本は京都のお祭らしく」。祇園祭の鉾の装飾の主は幕類であり、木部や屋根は前に出ず、綺麗な形を目指すようにと。連合会理事長からは「屋形の軸組もしっかり造るように」。いずれも簡潔なご指示であった。

 現実に150年ぶりの巡行参加を目指すならば、2012年内にドナー折衝のための部材図と内訳が必要となる。委員会で策定される御神体や懸装品、彫金や彫刻の基本設計と間違いなく齟齬が無いように、同時並行で実施設計が必要となった。2011年の暮れから四条町保存会での「大船鉾の復興を考える会」に、当事者の実務協議に交えて頂けた。京町家ネットのメンバーや施主も居られ、改めて京都での仕事のご縁の深さを感じる。

 今年の3月にはうれしい屋形本体の寄付が決り、委員会では基本設計が決り、そして屋形の製作が始まった。見積もり用の部材図を施工図レベルに書き込んだ。竹田工務店では屋形の全部材の原寸型板を作成し、小屋組の仮組みが完了、屋根の製作が進んでいる。艫屋形も枡組を残して順調に仮組みが進んでいる。跳出高欄の製作など、すでに完成した船体構造と取り合わせる作業の山が待っている。

 先日、考える会の後、保存会理事長に声を掛けて頂けた。「今までにも復興の話はあった。町内が景気のいい時期もあった。でも造れる人たちがおるから今ここまで来たんやで」。肝に銘じて来年のお祭を目指すお手伝いが続く。

2013.7.1