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京町家再生研究会
末川 協 (再生研幹事)

大船鉾巡行を終えて

 7月24日、祇園祭では49年ぶりの後祭巡行の実現と合せ、150年ぶりに四条町による大船鉾が巡行を果たされた。4年前からその木部、軸組の設計を担当させて頂き、無事の巡行を安堵していると同時に、設計を任せて頂けた方々、本気の復興に向けて気の遠くなる頑張りを続けたご町内の方々、支援された数え切れない方々、実際に木部を刻んだ工務店の大工方、巡行を勤めた作事方や車方、巡行を暖かく見守ってくださった大勢の方々とのご縁が走馬灯のように駆け巡る。実現した巡行から今まだ2週間、復元設計から携わった4年間の月日を消化しきれず、溜まった仕事を傍目に、まだぼぅっとしながらの入稿をご容赦頂けますよう。

 鉾の復元設計から巡行までお手伝いした実感を述べるなら、技術者がそのプロセスに役立とうと思うなら、当事者であるご町内に信頼され、受け入れられなければならないと言うことだ。未来永劫、神事を続けるために鉾が必要だというご町内の切実な思いに共感できない限り、通りすがりのオブザーバーや専門家に終わる。再生研の設計者や作事組の職方にとって、日々の町家改修でも、この点での立位置は同じはずである。将来も続くメンテナンスの必要は同じ、しかし鉾は町家と違い、毎年の巡行で消耗していく。その点検も必要だし、同時に鉾は毎年ヴァージョンアップもしていく。鉾だけではなく、町会所をもたない四条町では昇降台も必要だし、新しく鉾を取り巻く埒(山鉾を囲む柵)や駒形提灯、屋形提灯も必要になる。石持を運ぶ台車や、船体を持ち上げる大梃子も必要で、囃し方の太鼓台や、御神体の支持材も必要になる。この辺りで、ご町内の本気の頑張りをどれだけフォローしていけるか、技術者としての信頼が問われた思いがする。ご町内だけではなく、多額の資金援助を頂いたドナーに対する責任も同様である。屋形の制作中での設計変更や工期の変更について誠実に説明しなければならない場を何度も頂いた。

 また、設計だけで、ご町内の信頼を受け持つことはとても無理だったという実感がある。実際に船体と屋形を刻んだ工務店の社長や職方とは、譲れぬところで、喧々諤々の言い合いもしたけれど、屋根の接合部の水仕舞いや唐破風軒の棟木や腕木の持ち出し方などでは設計の不備も補ってもらい、誇りを持って製作に当たって頂けた。皆、後祭巡行の当日を見守ってくれた。日々の町家改修を手掛ける仲間たちも大きな力添えだった。大船鉾の手伝い方には、棟梁塾一期生の若い親方が棟梁で加わり、昇降台や駒形提灯、屋形提灯の製作、埒の改修など、鉾を取り巻く多くの仕事を本番までに間に合わせた。本番では船体の組み立て、縄がらみを成し遂げ、巡行では音頭取りや指示役を立派に務めた。普段の現場で見慣れた若い10人の職方の晴れ姿が誇らしく思える。町家改修で得られた貴重な人の輪に感謝する次第である。

 再生研と祇園祭の山鉾との関わりを述べるならば、今年新調された占出山を筆頭にこの数年で新調される5基の舁山の軸組の実測調査の職務がある。それぞれ担当の設計者にもご町内の事情に対して、信頼を求められる機会があるだろうし、それに応じられる技術者でなければならないだろう。そしてまた、日頃の町家改修の現場で培われた職方との協働の積み重ねが、求められる力として役立つ時がくるだろう。再生研、作事組で開講してきた「京町家棟梁塾」も今年の後祭の巡行を終え、7月30日、第4期生の修了式があった。1期生が総出で加わった大型の山鉾の軸組の調査から8年が経ち、今では11人の卒業生が5基の山鉾の作事方に加わり、2人が棟梁の役目を果たしている。彼らの活躍と再生研の祇園祭に対するお手伝いがご町内で繋がるご縁があるかもしれない。

 ピュアな伝統構法での京町家の再生産を目指す設計者にとって、町家の新築よりも鉾の新築を先にお手伝いすることになってしまった。町家で求められる構造性能と鉾で求められる構造性能は違うが、同じ京都の中で、おそらく同じ大工の手で作り上げられてきたものだ。それらの性能評価にどのように向かうのか。大船鉾船体の軸組に関しても、四方転びの櫓が層間変位にどう抵抗するのか、跳木の足元の開きが横転にどう備えるのか、前後の跳木と組合せ柱が鉛直力をどれだけの割合で負担しあうのか。少なくとも、その仕組みだけは先達による鉾の構造をつぶさに学べば多少なり理解できるのかもしれない。40人を乗せ、4回の辻回しを終えて、4年間で想定した安全の範囲の中で巡行を果たした四条町による大船鉾の復興が伝統軸組工法の復権の新しい一歩とも結びつきますように。

2014.9.1