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京町家再生研究会 活動報告

2009年6月例会報告

シンポジウム「伝統構法の法的許容と京町家再生」
日時:平成21年6月13日(土)
場所:ひと・まち交流館 地階ワークショップルーム

 日本の伝統的な景観やそれを造り上げた伝統構法について、この60年間とは違う価値が見直されています。国レベルでも伝統構法の評価へ向けた取組みが始まると同時に各地で伝統構法の再生が日常化しつつあります。それらの流れがどのような接点を見出すのかを語り合うべくシンポジウムは企画されました。
 はじめに大橋先生から、国土交通省で行われている伝統構法の性能検証のプロジェクトの報告を頂きました。昨年から向こう3年間で、各地の実務者を加え、実験と解析を行い、伝統構法での簡易設計法、詳細設計法が告示で発表される可能性があると伺いました。二棟の試験体を大型振動実験台で揺らすビデオも見せていただきました。倒壊までの映像はショッキングではあるものの、伝統構法はそれなりに強いという評価です。

 続くパネルディスカッションでは、はじめに再生研や作事組での京町家再生の取り組みについて意見交換が行われました。町家そのもの足元を繋げない構造への素直な疑問や、施主への耐震性の説明責任の所在、構造専門家の関わらない京町家の再生の取り組みについて、大橋先生から率直な問いかけがありました。梶山氏からは、地域に固有の環境や歴史や文化の中で伝統構法の理解に努めること、「町家のことは町家に聞け」というスタンス、住まい手にもその理解を広げる姿勢が述べられました。荒木氏からは町家はつぶれない訳では無く、しかし修復可能な被害はある程度想定されており、100年持ったものなら改修の際、100年もった元の形に戻せること、そして次の100年を持たせる考え方があることを答えられました。木下氏からは今までの京町家再生研の取り組みと京町家が社会的に復権した今日の状況が語られました。町家の構造への理解では、桁行に段階的に高さの違う鳥居型の柔らかいフレームがならび、それをつなぐ安定した三角の妻壁で面外からの地震力も吸収分散しているのではという考えが末川から付け加えられました。

 次の議論は、京町家を含む伝統構法での新築の可能性と、その性能や品質を担保する方策となりました。大橋先生からは、今回のプロジェクトは「京町家」の実験ではないこと、「伝統的構法」が指す言葉の定義はなく地域や時代とともに変わるという認識、今あるものを解析することは難しく新築の方が易しいこと。その点で石端建ての性能評価は今のところ未知の領域であることを伺いました。梶山氏からは構造解析が必要という出発点に疑問があがり、町家に関する限り法の適用除外の可能性が問われました。構造設計者である立石氏は会場から、解析は必要と思う反面、町家の構造が解けていない状況であること、そこに立会いたいと思う気持ちはあることを伝えられました。一方荒木氏からは伝統軸組の強さは仕口の出来で変わること、これは計算より大工に任せるべきで、近年のごとく在来工法が金物頼りに至った経緯への反省が語られました。会場の木下棟梁からも建築基準法が生まれ、膨らみ続けた過程と自身の仕事の経験を重ねて話があり、その限界や役目を終えた部分への問題提起がありました。また地震研究の専門家である林先生からは、限界耐力計算法が言葉と裏腹に変形性能評価へ向っていないこと、地震波と地盤の条件が性能評価から漏れ落ちていること、何より「伝統」構法である限り「急ぐことが不幸を生む」、まずは伝えていくことが大切ではないか、本当に分かるところまで後戻りすることを否定してはいけないのではないかと会場から意見をいただきました。
 阪神淡路の震災やそれ以上の確率で人命が失われた福井地震での反省がある以上、同じ木造の何が良くてよくないかを技術的に理解しようとする責任は、研究者にも、大工にも、設計士にもあることが大橋先生から繰り返されました。法は時代や市場の要請に応じて変わるもの、皆が「残せ」と声を上げれば法もその後を追うはずだと、アウトローの活動で良いのか、今の国の動きを利用することは出来ないのか、京都の取り組みから国のプロジェクトへの協力の要請もありました。

 例年にも増して硬いテーマのシンポジウムでしたが、定員の100名を大きく越す参加者があり、行政担当者や、他府県からの参加者も見られました。単身アウェーに乗り込んでくださった大橋先生はじめ会場の参加者とも忌憚の無い意見交換をいただける貴重な議論となりました。

(記録:末川 協)
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