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京町家再生研究会
京町家再生研究会 活動報告

子供達の為の土壁塗ワークショップ



竹小舞を編む

ワークショップ全景

土を塗りつける

泥団子をつくる
 昨年9月3日、4日、夏休み終わりの週末、京都と大阪のインターナショナルスクールに通う小学生の為に、京町家の土壁がどの様に作られているかを学ぶワークショップを、2日にかけて行った。通信vol 109 に紹介した第8回「世界考古学会議京都大会」の催しの一環として、「アートと考古学」展覧会のアネックス会場である、中京区蛸薬師通り東入ルの元立誠小学校に於いて、地元作家の集う美術展の協力を得て、参加する小学生達の作品を飾る教室棟と講堂の間の中庭をお借りして開催した。展覧会場では、考古学遺物と現代アートや工芸、そして京町家の土壁をパネルや絵巻物、色土の見本や左官道具等と共に見ていただいたものの、町家の土壁をもう一歩接近して具体的に使われる材料を手に取り、土をこねて塗り上げる工程を身体で直接的に経験して貰おうという試みだった。中庭にシートを敷き、柱や梁に見立てた木軸摸型を2台置き、その木枠の中に貫を通し、割竹をワラ縄で編みつけ、そのしなやかに揺れる下地面に壁土をコテで塗りつけてゆく。参加した20人~30人の子供達や父母の皆さんは、普段見慣れない割竹やワラ縄の感触もさることながら、粘土にワラズサを混ぜ、およそ1ヶ月程発酵させた壁土のにおいや手触りに、格別の興味を抱いた様であった。ザワザワした切りスサを練り込んだネバネバと不定形な壁土をコテ板に取り、自分達の編んだ小舞下地に力一杯塗り付ける内に、だんだん土が下地に馴染み一体化し、時間と共に硬化し、しっかりした厚い壁になってゆく。この土壁が大工が刻んで架構した木の骨組と一体化して、地震に強い町家の構造が出来上がってゆくまでは、なかなか一気に想像もつかない事だろうが、人は一度覚えた事は必ず身体のどこかに記憶として蓄積し、再び鮮やかに蘇る伝統文化の種として育んでゆくことと思われる。
 
 このワークショップに突然飛び入りされた、大阪の工芸高校の先生と、わざわざインターネットでこのイベント情報を知り、関東から参加された2人の女性小学校教師は、土壁ワークショップを体験して、再び地元で再現したいと考え、指導者達の話しを良く聞き、慣れない作業に熱心に取り組まれていたのが印象的だった。おそらく東京では珍しい京都東山の土と西山の竹という、地域の自然素材を用いた京町家の土壁塗ワークショップは、貴重な機会になった様である。
 
 一方子供達は、土壁塗仕事の合間に、左官親方が持参した色付き泥団子に興味を抱き、作り方を教えてもらうや、この団子作りに集中し始めた。練り土を手に取り丸めてゆくと段々小球体が出来上がる。まんまるになるには、一生懸命丸めねばならないが、子供達は男女を問わず父母までもが熱中する。出来上がると乾いた土玉を水に浸し、自分の好きな赤や黄、じゅらくや青の色土にまぶして手のひらで磨き上げる。数十分の作業だが、これ程仕事に熱中する子供達は最近なかなか見られない。最後に、親方から持って帰ってもいいよと言われた時の喜び様は、この上ないものだった。
 
 私達、再生研、作事組メンバーの間では、常々京都市内の小学生を対象にこうした町家の作り方の基本的技術、大工、左官、瓦師達の仕事を紹介する機会を、是非作って行きたいと考えてきた。市内に大量に存続する京町家の構法、作法に於ける職人達の素晴らしい伝統技は、私達の住み続ける都市の生活環境の中に、大事な遺産として再生産され続ける価値あるものとして、世代を越えて伝えてゆきたいものである。
 
 WAC-8 は、京都での会議や「アートと考古学展」その他関連イベントを通じて、私達に京都の地中に埋蔵されている遺物群と、それらから学ぶ歴史、文化の大切さを教えると共に、現代社会の抱える問題として、考古遺物や過去の生活文化を捉えなおし、将来の展望に向けて次の世代の人々と共に、新しい価値を共有してゆく必要があることを明示してくれた。WAC-8 京都実行委員会の反省会に参加して、世界の参加者からのレポートや市民、観光客のアンケートの内容がとても好評だったらしく、「アートと考古学展」や、そこに参加した私達の京町家再生活動への注目、関心がより高まる事を期待したい。
 
 ところで、本年4月にオープンする四条町大船鉾町会所改修工事現場に於いても、地域の子供達を集めて、町家の土壁塗りワークショップがもよおされ、町内の皆様に喜んで頂いた様である。
 
 将来、市の小学校の教育プログラムの一環に、京町家再生の技と知恵を学ぶ時間を、是非採用していただきたいものである。

<木下 龍一(京町家作事組 代表理事)>
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