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京町家再生研究会
京町家再生研究会 活動報告

シンポジウム「京町家新条例の実現に向けて
―町家をこれ以上壊さないために」開催報告



 新条例「京都市京町家の保全及び継承に関する条例(仮称)」の課題を整理し、今後の京町家保全継承のあり方を検討するシンポジウムを開催しました。当日は約130 名のみなさまがお集まりくださいました。ありがとうございました。今回は新条例特集として、シンポジウムの開催報告をおこない、新条例の問題点を整理し、引き続き進めている活動について、紹介いたします。

 平成6年、町家の数を数えた。京都市内の田の字地区といわれる中心部にある戦前の木造住宅を2年かけて8,000軒の記録をした。トヨタ財団の助成を受けて進めた調査研究であるが、それまで町家が京都市内に何軒あるかはわからないままだった。調査はその後京都市が引き継ぎ、京都市全域に広がっていった。昨年、再度調査があり、町家の総数が報告された。7 年前の市内全域の総数47,000 軒から40,000 軒にその数を減らしたことが明らかになった。最初に数えた田の字地区内の町家とほぼ同数の町家が無くなったという結果であった。

 町家ブームと言われて久しい。いまは京都の代表選手のようにとりあげられる。しかし現実は厳しい。今現在も取り壊されている町家があるだろう。それをどのようにして止めることができるのか。町家は京都の暮らし、住まい方をこれまでずっと継承してきた家である。調査をしているときにうかがった居住者のお話は学ぶことも多く、それぞれお宅に対するお気持ちの重さも実感した。このような多くの方々の思いがしっかりとつまった町家をどのように扱うのか、大きなことである。が、ここをきちんとしないと京都が京都でなくなるだろう。京都の個性を土台で支えているのは京都に住む人たちであり、その人たちは町家に住んでいたから。単なる「活用」ではなく「継承」をどのようにして進めていくかを早急に議論しないといけない。今回の条例はそのためのものであると理解している。「継承」をどのようにしていくか、京都をささえていた居住文化を新しい「居住者」にしっかりと伝えたい。その努力を惜しめば町家はたちまちに京都市内から消えてしまうだろう。これまでの滅失の速度をみれば、今が最後のチャンスであると思える。

 今回の条例は、緊急の避難先であることを明確に伝えることも必要である。住み続けたいけれど様々な事情で無理になったという方々の為のものであり、これまでなかなか関われなかった解体、売却という大きな問題を積極的に私たち町家に関わる組織が受け止め、次の解決策を共に考えようとする取組である。

 一方、今お住まいの方々には、これからもずっと住み続けることのできる環境を整えることも急務である。この部分をきちんとしない限り、町家の滅失を止めることはできない。常にアンテナを張り巡らせて、町家から聞こえてくる「声」を聞き続けること、すばやく対応出来る体制をとることが今一番大切なことだと思う。

<小島富佐江(京町家再生研究会 理事長)>


● 趣旨説明
最初に燗c光雄先生から今回のシンポジウムで検討する課題や問題点が整理されました。要点は以下の通りです。

1.新条例の意義と目的
保全継承にどのような意義があるのか。活用の中身が問題である。
2.所有者や居住者の思い
所有者や居住者が自信を持って京町家を維持する環境を作ることが必要である。町家に住み継いでいくためにはどういう考え方があるのか、どこに問題があるのか、そのような課題を検討していかなければならない。
3.条例でできること
条例でできることとできないことを整理する。
4.流通の仕組みや改修のルール
考え方や問題点を整理する。
5.さまざまなプレーヤーの役割
民間の役割と行政の役割、専門家ないし市民活動団体の役割がそれぞれあり、それらを明確にする。

● パネルディスカッション
強硬論からソフトなルールの提案まで、さまざまな意見が交わされました。主な意見やコメントを紹介します。

■ 京都の観光産業は危機的状況である
■ 京都市民に京町家をつぶす権利はない
 大学や先端産業だけで京都を支えることは難しい。観光産業の恩恵を誰もが少なからず受けている。京都が魅力的な町にならなければ、観光客も来なくなる。そのような観点からも京町家は京都の財産であり、国の財産であり、世界のものである。
■ 京都市の新条例に関する説明会がうまくいっていないようだ
 条例説明会では市民から厳しい意見が出たと聞く。これまで再生研をはじめ、民間では数々の活動をおこない、実績もある。京都市も町家を建てて消火活動訓練をするなど、他都市にはない取り組みもしている。京都市は、このようなことをきちんと市民にお知らせし、説明しなければならない。条例の本当の目的や内容が市民にうまく伝わっていないと考えられる。
■ 助成金ありき、ではない
 京町家の維持、保全については、財産権や相続税、メンテナンスに費用がかかるというが、どんな家でも維持費はかかる。改修も必要になる。京町家であれば、改修費用が十分でなくても、部分的に少しずつメンテナンスをおこなう等、しのぐ方法もある。京町家だから助成金が必要、というわけではない。
 ただし、現状、高齢者が困っているという問題がある。相続だけではなく、他の住みたい人に引き継ぐことも必要であり、そのような橋渡し、仕組みづくりが必要なのである。
■ 京町家の価値観を認識する
*なんのために保全継承するのか。
 生活文化の継承のためには、そのベースになっている空間が必要である。京町家の価値は町との関係によって見出される点が非常に重要である。

*残ればいいのではない。
 京都市京町家保全・活用運営委員会では、活用という言葉にかなりの議論が尽くされた。結局、条例は、保全「活用」ではなく、保全「継承」という言葉に落ちついた。活用と継承は違う。なぜ町家が残っているのか、それは次の土地や床利用がないからだ。改修の程度についても、生活文化が継承できる程度、と考えれば良い。観光も居住も京都にとって必要である。両者のバランスはそれぞれの地域において、町のなかで考えるべきである。したがってまちづくりの支援にも大きく関わってくる。

*流通の仕組みと改修の問題を検討する。
 民間の事業者が仕組みを作ってもっと積極的にやるべきである。そのためにどのような障害があるのか、課題があるのか、具体的に詰めていかないと何もできあがっていかない。

■ 流通の問題
*宿泊施設が増えている。
 飲食店に比べると柱や壁を抜かなくてもよいので、町家の有効活用としては効率も建物にも良い。ただし、町には宿泊施設ばかり、というのではいけない。居住用とのバランスを考える必要がある。

*居住用について:リターンだけを考えてはいけない。
 子育ての長屋をプロデュースしたらウケた。こだわりのある人が購入する。居住用でもコンセプトが必要。売買などによる収益ばかりを考えているだけでは、うまくいかない。

■ 市民の意識
 町家を持つ人にとって、町家に住んでいることが力にならないと、京都の町は支えきれない。これ以上つぶさないでおこう、という意思表示をみんながしなければならない。

■ 町の力
 居住は家の中だけで完結しているのではない。高齢者も子育ても「町で考える」という理念が大切であり、この条例もその前提でできている。

■ 行政が上手にさばき、摩擦や対立をおこさないようにすべき
 京都市民の意識にも問題があるが、行政の問題も大きい。隣接する建物など、周辺の物理的環境の整備は行政にしかできない。これらは行政が規制をかければ良いだけのこと。外部資本や観光客数をコントロールについても、宿泊税や環境税など行政がやり方を工夫すれば良いだけである。
 「市民が納得しない」というが、行政のやる気の問題にすぎない。官僚は優秀なので、法律などにおいてもいろい ろな解釈でできるはず。方針が決まれば適した手法を考えて実行する野が行政の役割である。

■ 京都市の政策をパッケージにする
 京町家をそのまま維持する場合は、継承すべき技術や資金面の問題を検討する必要がある。次の人に受け渡す場合は、どのように市場で流通させるのか、仕組みを考える必要がある。京都市の制度はいろいろ、担当課も違うので、わかりやすくパッケージ化するという方法も必要である。ソフトなルールで考えることも必要となってくる。

■ 仕組みづくりは民間がおこなう
 京町家情報センターをはじめ、民間にはこれまでにも空き家相談などの実績がある。京都市地域の空き家相談員制度も最初はボランティアだったが、「相談員が気に入れば、会社名を出してもいい」と京都市が言うようになった。相談員には宅建業界270名が協力しており、仕事となればみんな一生懸命にやる。

■ 公平性と透明性
 京都市は民間に任せることを躊躇しているようだが、これまでがんばってきた実績のある業者に対して「公平性」を盾に介入するのはいかがなものか。仕組みづくりのプロセスは見えていなければならず、市民が情報を共有することにより「透明性」を確保することはできる。

■ 地域の力と役割分担
 行政が規制やルールを独自に作っても、価値判断の働く有効な仕組みは作ることができない。2002 年の公開審議会では、まちづくりの仕組みをつくる、町の力をもう一度育てるという議論をおこなった。このときのように地域の仕組みを支えるのが行政の役割である。

■ 条例後のマッチング
 早くマッチングの仕組みを作らないとせっかく所有者が相談にきてもダメになってしまう。行政だけで取り組んでも無理なのは明白である。行政の限界を見据えて、民間に任せるところを見極めてほしい。これまでの実績を活かしていくことが必要。民間の努力の積み重ねを信頼してほしい。

 当日、来場者からは質問票やアンケートに多くのご意見やご提案が寄せられました。すべてを紹介し、検討するには至りませんでしたが、今後、貴重なご意見を京町家の維持継承、特に流通の仕組みづくりに活かしていきます。

 京町家再生研究会としては、一日も早く条例ができること、そして具体的な仕組みづくりが市民に見える形で進展することを望んでいます。上記のご意見なども踏まえ、今回のパネラーを中心とした京町家ネットのメンバー、そして京都市担当者を交えて、検討会またはワークショップなどを定期的に重ね、具体的な仕組みづくりの実現に向けて取り組んでいるところです。シンポジウムでも検討されたように、民間と行政がそれぞれできること、得意なことをやるべきであり、京町家情報センターのようにすでに実績のある不動産屋がより力を発揮していく仕組みを検討していきます。市民のみなさまに情報を提供するシンポジウムも随時開催することにより、仕組みづくりが「見える」ようにしていきたいと考えています。

 引き続きさまざまな組織と連携して一日も早く条例を実現し、仕組みを作っていきますので、ご支援、ご協力いただけると幸いです。

< 文責:丹羽結花 >


●シンポジウムを終えて
パネラーのコメントです。

◆ 京町家保全・継承のための政策課題 <燗c光雄>
 条例の根幹は「生活文化の継承と発展」である。そのためには、引き継がれた「京町家の床」をどのように使うのか、どのような主体がそれぞれの役割をどのように果たすのか、を考えれば良い。

 基本形は居住機能の保護、すなわち京町家が次の所有者に渡って住み継がれていくことである。事業として活用するケースもあるだろうし、社会的な活用も検討すればよい。居住ではない場合、どのような活用がよいのか、という判断は地域社会が受け入れるかどうか、にかかっており、地域まちづくりとの連携が必要となってくる。
 問題は行政の役割である。プレーヤーではなくコーディネーターとして、このモデルがうまく動くように有効な支援をおこない、そのための法的、経済的制御などを検討すべきである。すなわち、市場の補完と環境整備を具体的な施策として実施する必要がある。次の活用を見つける努力をせずに解体へ向かうとき、その業者を指導することも行政にしかできない仕事である。

◆ 流通の仕組み <西村孝平>
 流通業者として今回の条例は期待していますが、本当に京町家の解体に歯止めが掛かるかは?です。なぜなら八清が京町家に取り組み始めて16年経っていますが、未だに700件以上の解体が現実にあるからです。確かに「古家付土地」という表現はなくなり京町家というジャンルが確立しましたが、流通業界の中で京町家を残すことに意義を感じている業者がそんなに多くいるとは感じられません。もちろん業者だけでなく京町家の所有者自身もそのように感じていない事が流通業をしていると良くわかります。

 特にその理由が顕著に出ているのが京町家の相続物件に現れます。たとえば相続物件で3人の子供が相続している場合、居住している相続人が町家の存続を期待しても、残りの二人は「高ければ誰が購入しても良い」と言うケースが最も多いパターンです。特に高く売りたいだけの所有者や流通業者はすぐに「入札制度」で売却価格を競い合いさせるケースが散見されます。この場合、弊社が入札してもほとんど他の購入者に負けてしまいます。特に大型町家に関してはこの傾向が顕著です。

 本当にまれなケースで弊社が購入できた事例を紹介します。上京区の大通りに面した160坪の京町家を所有している相続人の一人が思い入れのある町家を残したいと弊社に「入札制度」で依頼してきました。もちろん、角地で賃貸マンションにするには絶好の条件ですのでおそらく入札は負けると思っていましたが、なんと、京町家を残してくれるなら金額が低い弊社に、とオファーをかけてきたのです。もちろん一番手との差はかなり隔たりがあり、弊社の入札価格のアップを要請してきましたが、その金額でも4000万以上の差がありました。弊社を希望した相続人は入札金額をアップしてくれたらその差額は自分の取り分を減らして他の相続人に分配すると言ってきました。これには私も驚きましたが、相続人の京町家を残す思いに惚れて購入金額をアップして購入させていただきました。購入したらすぐにマンション建設希望の購入者から購入の依頼が来ましたが、相続人との約束があると言ってお断りして京町家を存続できる方にお売りすることができました。飲食と宿泊所の併設施設に活用するようです。

 このようなケースは本当に希少でありほとんど高値に動くのが「経済合理性」であります。特に大型の京町家のほとんどはこの「経済合理性」で解体されると思います。「経済合理性」に打ち勝つ規制又は評価アップ又は税制優遇がないと町家の解体が少なくなるとは思えません。

 しかし、解体する前に京町家の所有者と相談ができるのは京町家の保存・継承の意義を伝えられることが出来るので、是非熱い思いを持った京町家相談者の育成を期待します。

シンポジウム実施概要
《日時》2017 年9 月3 日(日)13 時30 分から16 時30 分
《場所》メルパルク京都 6 階 会議室D
《趣旨説明》燗c光雄(京都市京町家保全・活用運営委員会委員長、京都美術工芸大学教授)
《主催》京町家再生研究会 京町家友の会 京町家作事組 京町家情報センター
《後援》ワールド・モニュメント財団、京都市

パネリスト(五十音順)
鈴木章一郎(京都市都市計画局長)
燗c光雄
デービッド・アトキンソン(小西美術工芸社、京町家友の会会長)
西村孝平(株式会社八清、京町家情報センター幹事)
宗田好史(京都府立大学教授)
コーディネータ:小島富佐江(京町家再生研究会理事長)

過去の活動報告