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京町家再生研究会

Information◎町家に関する二つの調査

大谷孝彦(再生研究会理事長) 
 夏の暑い盛りに京都の中心部の町家の悉皆調査が行われたのは今から5年前の平成10年のことで、多くの市民がボランティアとして参加しました。調査の結果、中心部には28,000軒もの町家が存在していることが分かり、京町家の建物の状況やそこに暮す人々の思いや様子を垣間見ることができました。その資料を基に京都市では「京町家再生プラン」が立てられ、京町家の保全・再生に関する施策が展開されています。その後、5年の経過の間に、残念ながら壊されてしまった町家もあるでしょうが、一方で町家への関心が随分高まり、最近は町家ブームとも言える状況があります。
 国からも、やっと歴史的ストックを活用した都市再生策などが打ち出されるようになりました。町家レストランなどへの事業活用や新しい住み手による町家住まいも増えています。我々の京町家ネットの情報センターへの問い合わせも随分数が多くなり、内容も多様です。そのような状況をしっかり確認するために、この度、京都市と\財()京都市景観・まちづくりセンターで町家フォローアップ調査が行われることとなりました。前回と同じ外観調査とアンケートを行い状況の変化を調べます。調査はまだ寒さが残るかも知れませんが三月の中旬から下旬にかけての実行ということです。
 以前の調査事点からどのような変化があるか、結果を期待する気持ちも大きいのですが、一方、結果の数字だけで単純に喜べないような町家、町家再生に係わる基本的な問題も積み残したままです。当研究会では今回の調査と協調して、何軒かのお家へのヒアリング調査を行い、個々の町家の様子を掘り下げて確認することを行います。定量的な調査データと重ね合わせてみることによって状況の意味的な把握ができ、調査の密度が高められると思っています。また、個々の町家の具体的な相談に係わっていくことによって、NPOのボトムアップ的な活動展開への足掛かりを作ることにもなります。今回の調査が、今後の町家再生、まちづくりにとっての大切な根拠資料作成の場となり、また、新たな活動展開の契機となることを期待しています。皆様の積極的なご参加を御願いしたいと思います。行動を共にすることによって市民の間で町家を大切に思う意識の共有をさらに広げるチャンスでもあると思われます。

 今一つの動きは、京都市によって行われる京町家耐震調査研究です。伝統構法に合わない建築基準法の基準のあり方が問題となったままです。長年に渡って伝統の技の智恵と工夫によって創りあげられてきた伝統構法は、変形することによって地震力に対応する、いわば柔らかい構造であり、これに対しては限界耐力計算という計算方法が適すると言われています。その確認のために、いくつかの型式、大きさの約30軒の町家について実際にこの計算を行ってみようという調査です。計算の資料として建物の調査を行い、柱梁の軸組や床組、小屋組、基礎の状況と建物の傷み具合なども確認します。ただし、この調査研究の目的は町家の構造性能の検証、あるいは、適切な補強の手法を求めることにありますので、個々の町家の耐震評価を目的としたものではありません。全体の指導は伝統木造の構造について研究、実験を続けてこられた京都大学防災研究所の鈴木祥之教授が当たられます。調査研究の結果、京町家から既存不適格というような不名誉な名称が払拭されるためのひとつのステップとなるように期待するところです。

2004.5.1