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京町家再生研究会

京町家ここちよい暮らし

内田康博(再生研究会幹事) 
 2年ほど前、関西電力から京町家再生研究会に対し、共同勉強会のお誘いがあった。関西電力では電気を使った安全で快適で経済的でエコロジカルな住宅の提案をしているが、京都においては京町家をはずして議論することはできない。しかし、関西電力には京町家についての知識が不足しているので、共同で勉強会をしませんかという趣旨のお誘いであった。方針や結論の見通しはつかないまま、それが京町家の再生に何らかの形でつながるのであれば、という思いから、双方手探りでの勉強会がスタートした。
  勉強会は、再生研から関西電力に対して、京町家に関する基本的な考え方の説明をすることからはじまった。京町家を舞台とした伝統的な暮らしぶりの説明では、四季折々に変化する自然との対話の中で、暑いときは暑いなりに、寒いときは寒いなりの暮らし方を工夫し、自然に即応した、無駄のない、それでいて情緒あふれる豊かな生活が示された。
  また、地球環境の視点から、現代の消費社会のエネルギー使用の状況が、人類の歴史の中でいかに異常な事態であるか、おおげさにもみえるが、そもそもの宇宙の始まりから地球の歴史までを視野にいれて説き明かす試みもなされた。それは、現代の生活スタイルを根本的に問い直す試みであり、人類の長い歴史の中でつちかわれた伝統的な居住様式の延長線上に位置し、節度ある、理にかなった生活態度を反映するものとして京町家を見直すことであった。
  ハードとしての京町家建築と快適な生活を保障する現代の設備との関係に関しては、京町家作事組の試行錯誤と実践の成果が役立った。既刊の『町家再生の技と知恵』と最新刊の『町家再生の創意と工夫』の二冊に詳細にまとめられている通り、ハードとしての京町家の理想的な姿を追求すると、基本的には「元の姿にもどすこと」に行き着き、それを忠実に実践すれば、現代の生活様式や居住環境を支える設備はかなり排除されることになる。そこで、現代的の生活に応じた快適さと京町家建築の優れた点を調和させるために、京町家の良さをできるだけ損なわない、電気、ガス、上下水道、給湯、空調などの設備を設置するための指針が提示された。
  さらに具体的に検討を進めるために、京町家と一般の郊外型一戸建て住宅やマンションタイプの住宅とのエネルギー消費量と室内各所の温室度変化の比較検討などを試みた。また、京町家のあり方の多様な実体を把握するために、規模、建築形式、使用条件、家族形態など様々なタイプの京町家をピックアップして、生活の仕方と設備の使用状況などについて個別調査をさせていただいた。
  関西電力からは、電気を使った住宅設備の有用性についてのレクチャーをいただき、設備の選択肢のひとつとして検討された。
  勉強会のなかで強く感じたことは、京町家と、現代の住宅の「快適さ」「ここちよさ」が、いかに別の種類のものであるかということである。建物の隅々までの通風が命である京町家と、高断熱高気密24時間換気を原則とする現代住宅とは、まったく異なる価値観のもとにつくられている。季節による居室の温湿度の変化を許容し、暑いときには通風を工夫し、寒いときには体を温めることを考え、熱いなりに、寒いなりに「しのぐ」ことで自然と共存する京町家と、四季や昼夜の温湿度の変化を最小限とし、全館空調を目標とする現代住宅とでは、エネルギーの使い方が全く異なる。土、木、紙、草などの自然素材でできた室内のここちよさは、ビニールクロスと合板のフローリングでつつまれた現代住宅と比べようもない。温湿度調査やエネルギー消費量の調査結果も、その前提をはずしては、意味を失う。
  個別の住まい方の調査からは、京町家の良さを生かした様々な住まい方の工夫が見えてきた。そのなかには必ずしも京町家にとって理想的ではない住まい方も見られたが、生活を住まいに無理に合わせて不都合を生じるようでは本末転倒といえる。現代の生活と京町家との間には矛盾もあることを認識する必要がある。わたしたちはまだ、京町家にここちよく暮らしてゆくための決定的な対処方法を手にしているわけではない。
  今回の勉強会を通じて、住み手と作り手が対話をしながら、京町家の成り立ちを理解した上で、個々の事情にあわせて工夫をしながら暮らしてゆくことが京町家での暮らしの楽しみであり豊かさにつながるものととらえられたとき、現代の生活と京町家が相い和してゆくのではないかと思われた。
2005.9.1