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京町家再生研究会

京町家証券化の試みで見えてきたもの

松井 薫(情報センター事務局長) 
 京町家証券化については、この「京町家通信」でもvol.38で吉井英雄さんが「京町家の証券化という試み」を、vol.41で「京町家不動産証券化実現に向けて」と題して、京町家情報センターの登録不動産業者である八清の西村さんがその時々の現状をお伝えしておりました。またその前段階では、国土交通省による京町家証券化のシミュレーションが行われ、以下のような問題点が出されていました。
・一つ一つの物件規模が小さいため、数物件程度で証券化すると「証券化」にかかるコストが相対的に高くなるので、事業収益性はほとんど見込めない。
・特に居住用としての京町家では、賃貸料が低いので収益性はまず見込めない。
・但し、京町家の保全・再生に対して篤志的に寄付に準じた出資などが見込めると、低い利回りなら実現が可能になる。
・また、事業収益性の高い物件と居住用物件とを組み合わせることにより、収益性の改善が期待できる。
・さらに、「証券化」に必要な費用(アレンジャー費用)を引き下げることが出来れば、一般の証券購入者への利回りが一定水準確保することができる。
  これを受けて、現在証券化の準備が進められているところですが、物件としては、東山安井、新町六角、伏見納屋町、宮川町松原の4つが対象となっており、このうち東山安井と新町六角はすでに賃貸がスタートしており、残り2つのうち1つが決まれば証券化に踏み切る、という段階に来ております。
  京町家の証券化は、一般の不動産証券化とは異なり単純な投資目的では成立することはありえないもので、前記シミュレーションにもあったように、関係する全ての人たちが、町家の保全・再生の意義を共通認識として持っていることが大前提になります。ということは逆に言えば、京町家の証券化を進めるプロセスの中で、証券化のための物件を提供する人、証券化に直接携わる人たち、町家物件を借りて活用する人、利用目的にかなうように改修をする際にかかわる人たち、証券化された町家に投資する人たち、に対して町家再生の意義を話し、理解してもらい、共通認識をもつ人の輪を広げることが出来ます。この部分が成功しないと京町家の証券化は成り立ちません。これが京町家の証券化にわれわれが取り組む大きな意義であると思います。
  最近は、ビジネスとしての京町家再生を提案したり、実行しようとする人たちも増えてきました。単体で町家を改修してビジネスに利用する人や、町家店舗をチェーン展開していこうとする人、もっと大きく都市再開発と同様の手法を用いて町家再生ビジネスを組み立てようとする人など、さまざまな段階でのビジネス展開が考えられております。しかし、こういったビジネスとしての京町家はともすれば、収支バランスが優先され、本当に建物にとって必要な改修がなされているのかはなはだ疑問です。また、今まで住み継いできた歴史をちゃんと継続することになるのかもチェックされているとは思えません。現代の社会の傾向として、目先の利益を追求することで、自然のリズムから逸脱し、人間の住む環境を悪化させ、自分たちの生存そのものが危機に瀕していてもなお、方向転換がなかなかできないということがあるようです。環境に対して、CO2を6%削減することを世界的な規模で約束してもCO2は増え続けていますし、少子化問題にしても、多くなりすぎた人口が減るのは至極当たり前のことで、これで本質的な部分での問題も解決できると私などは思うのですが、世間では何とか少子化をくいとめなければえらいことになる、と担当大臣まで割り当てています。生きていくために利益の追求をしていく中で、ある点を越えてしまうと、生きていくための物理的化学的環境が損なわれるという自己矛盾をかかえているのです。その変節点はすでに越えていると思われるのに、成長志向はとめられません。もっと全体のなかで、バランスをとらないと持続型の社会とはならないのですが、その点、町家はいろいろな意味で、絶妙なバランスで出来ている気がします。その中で営まれている生活にしても、建造物としても、エネルギーの利用の仕方にしても必要なだけあればいいに徹していますし、そのためにはそれぞれのよさを最大限に活用しながら、なおかつ豊かで美しいというすばらしいバランスで出来ています。これから目指していくべき持続型社会のひとつの典型として、京町家は見本とすべきものです。この京町家をビジネスにとりこんで、目先の利益のためだけに利用するようなことにならないように注意したいものです。京町家の証券化もこのバランスを崩さず、ビジネスに偏らないことが大切なポイントではないかと思っています。
2006.3.1