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京町家再生研究会

本当の普及のために、今こそ京町家ネットの協働を

梶山秀一郎(作事組理事長) 
●保全・再生の普及と反面の現象
 楽町楽家が今年も盛況裡に終了した。京町家ネットを背負い奮闘する、担当者の過大な負担に負い目を感じつつも、この企画が町家の価値の普及に果たす効果の大きさに、続けて欲しいと願う。京町家ネットの4会もそれぞれの持ち場で、町家の保全・再生の普及を主要な目標に掲げ、多彩な活動を展開している。しかるに京町家ネット会議の場で議論になるのは相も変わらず、商用町家の不適切な改修や利用、流通する町家の商品住宅ばりのリニューアルや法外な値付けなど、町家を消費する状況が後を絶たない、いやむしろ増えていることである。 どうすれば町家の不適切な扱いが防げ、適切な保全・再生を普及できるのかを考察する。

●誰が町家を壊しているのか
 再生研が、そして京町家ネットや他会が、町家の保全・再生の普及に努めてきた結果、確かに町家は脚光を浴び、新景観条例をはじめ、京のまちづくりや京都ブランドと町家は切り離せないものになった。その反面、うろんな追従者や剽窃者を生み、情報センターや作事組が手がける町家の何倍もの町家が、不当な扱いを受けている。この黙認しがたい状況を、改善するための手立てを考える。
 それでは、町家を壊したり、町家に不当な境涯を強いているのは誰か。法律や制度か、あるいは無理解な設計者、工務店あるいは宅建業者か。確かに現象としてはそのように見えなくもないが、それは、まぎれもなく町家の持ち主であろう。持ち主がきちんと町家を理解していれば、不当な扱いをする者に町家を委ねることはないであろうし、万やむを得ず、壊したり、手放さざるを得ない場合でも、万般の手立てを尽くす筈であるから。そうして残った事例も多い。町家を守るのが持ち主であることを身をもって証明するのが、京町家ネット各会の活動であろう。京町家ネットの楽町楽家に協力する持ち主や住み手、再生研が関わる山鉾町家など、友の会の会員、情報センターの貸し手や借り手、作事組の施主である。それぞれの活動は単なる学習、流通や改修を超えて、対話を通した解り合いのプロセスを踏むことで、町家をきちんと理解し、われわれの活動に協力する持ち主や住み手の輪を着実に広げている。

●町家が守れないわけと、われわれのできること
 つぎに、町家を守れないようにしているのは何か。一つには町なか産業や商業の衰退、その担い手である住み手の減少、ひいては世代更新が途絶えることによる高齢化、すなわち町なかが住み、働く場所でなくなりつつあることである。しかしこの問題は郊外への大規模店舗出店や開発を抑制して、コンパクトシティを目指す、この11月末から施行されるまちづくり3法への期待を含め、市民活動のらち外である。ただし、観光だけに頼らない住み、働きたくなるような魅力あるまちづくりはわれわれの、取り分けて地域住民の課題である。
 二つにはディベロッパーや資本による外部からの侵入者による開発圧力である。相続税対策などによる不動産賃貸事業や時間貸し駐車場もまちの論理とは関係ないことからすれば、外部からの侵入である。これも地域がまちの論理を構築し、それに従って排除するか、適合を要求するしかなく、われわれはできても手助けである。
 三つには法律や条令などの行政の施策である。しかし、基本的に法律等は良いものを作ったり守ったりするための道具ではなく、良くないものを制限するためのものである。新景観条例も、既に定められた地区計画や建築協定より緩いというねじれを生じている。われわれとしては地域がよりよいまちづくりのための論理構築の手助けをすることと、行政に対して、町並み形成は地域に委ね、役割は地域間の景観を調整することに限定し、侵入者にならないことを求めることである。
 残るは“車が通るから表を開けられず、風が通らないし、隣のビルから室外機の熱風も吹き付けるから、クーラーをつけざるを得ない”、“町家では現代的快適性を享受できないのか”、“地震でつぶれないか”、“直すだけで便利になるわけでもきれいになるわけでもないのに、金を掛けるのはもったいない”などであり、ここが京町家ネット各会の勝負所である。

●今の活動で守れないわけを、どうして、いつ、なくせるのか
 いままで、それぞれの会が別々に依頼者ないしは会員と、解り合いのプロセスを積んできたわけだが、問題も抱えている。作事組の会員が、作事組以外の仕事で作事組のやり方を踏襲しているわけではない。情報センターの改修の仕方が作事組と同じ考え方ではない。また友の会の会員は、全てが住み手や住み手予備軍ではない。
 各会の持ち分が違うので、多少の食い違いはやむを得ないが、相手は同じ持ち主や住み手なので、各会が対話の場を持ち、伝える内容をある程度収斂しておく必要がある。また、それぞれの活動のあり方を互いに批評する必要もある。そして、より広範な対象者に本当の理解をしてもらおうとするならば、各会が協力して伝える努力をして、理解者が口コミなどで、さらなる理解者を生み出す連鎖の仕組みを作るしかない。回り道のような気もするが、講演やセミナーで大向こうに訴えるやり方や、本や書き物では、本当の理解者が得られないとすれば、それが唯一の近道である。
 そして、おおもとの持ち主や住み手が本当の理解者になることで、その方々からちゃんとした対応求められた設計者、工務店や宅建業者がそれぞれの会に相談してくるようになれば、しめたものである。
2007.9.1